医療制度改革に関する5つの反対・5つの提案

 

2001年11月
(社)日本医師会

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A 5つの反対
 1.老人医療費伸び率管理制度
 2.患者負担増
 3.小手先だけの老人保健制度の見直し
 4.保険者による直接審査支払・割引契約
 5.むやみな特定療養費の拡大

B 5つの提案
 1.高齢者医療制度の創設
 2.被用者保険における保険料総報酬制の導入
 3.薬価・医療材料価格の引下げ
 4.たばこ税の引上げによる公費財源の確保
 5.一般医療保険の地域保険への一元化


反対1.老人医療費伸び率管理制度には反対

 老人医療費伸び率管理制度は、憲法違反の疑いがある。

<根拠及び理由>
 1.個人の尊重と平等の理念を侵す。
 2.国民の生存権を脅かす。
 3.国の社会的使命の履行義務に反する。
 4.フランスでは違憲判断がされている。


反対2.患者負担増には反対

 これ以上の患者負担増は、家計破壊となる。

<根拠及び理由>
 1.患者負担増は公費、事業主負担の家計への転嫁に過ぎない。
 2.医療費財源における家計負担(保険料の家計負担分+患者一部負担金)は、既に45%に達している。
 3.高齢者は既に応分の負担をしており、高齢者を標的にした患者負担増は許されない。


反対3.小手先だけの老人保健制度の見直しには反対

 財政的な辻つま合わせだけの改革で済まされる状況ではない。

<根拠及び理由>
 1.対象者を単に75歳以上にし、対象者を縮減することによって、財政的な辻つま合わせをしようとしているだけである。
 2.医療費の抑制を伸び率管理制度という安直な策にしか頼れず、制度論的にアプローチするという前向きの姿勢がみられない。


反対4.保険者による直接審査支払・割引契約には反対

 医療の平等性、公平性、フリーアクセスを国民から奪う政策には反対する。

<根拠及び理由>
 1.公平な審査体制が構築できない。
 2.患者さんへの守秘義務が担保できない。
 3.割引契約は、大規模組合に有利に作用し負担面で被保険者間の不公平が拡大する。
 4.健保組合による医療機関の囲い込みと患者誘導がはじまり、その結果フリーアクセスが阻害される。
 5.値引きには値引きで対抗するしかなく、質の低下、地域医療の混乱を生じる。


反対5.むやみな特定療養費の拡大には反対

 公的保険のカバー範囲の縮小につながる特定療養費の拡大には反対する。

<根拠及び理由>
 1.受けられる医療の格差をもたらす。
 2.確実に患者負担の増大となる。
 3.私的保険は誰でも加入できる訳ではなく、公的保険の代替とはなり得ない。


提案1.高齢者医療制度の創設を提案します。

 お年寄りが安心して医療を受けられる制度が必要です。

<提案の理由>
 1.わが国は少子高齢化が進行し、2015年前後には総人口が減少する中で75歳以上の後期高齢者が増加します。
 2.後期高齢者は、寝たきりや痴呆の発生率が高くなり、疾病も長期化する傾向が強まります。
 3.後期高齢者に対する対策が、今後の社会保障政策の重点課題となることから、70歳から段階的に対象年齢を引上げ、最終的にすべての後期高齢者(75歳以上)を被保険者とする独立した保険制度創設を目指します。
 4.健康に対するリスクの高い者だけで保険集団を形成するのには無理があります。したがって、「保険」という考え方から「保障」という考え方を強く反映させた制度とします。
 5.具体的には、財源として公費割合を段階的に増やし最終的に90%とします。10%を加入者の保険料と患者の自己負担とします。保険料を支払うことで、加入者の制度への参加意識を高め、積極的に意見が述べられるようにします。
 6.現行の老人保健拠出金制度は廃止します。
 7.70〜74歳については一般医療保険に編入されますが、独自の負担軽減措置を設けます。
 8.後期高齢者は慢性的な疾患が主となることから、長期療養者に対する合理的な診療報酬包括支払方式を導入し、医療費の伸びを無理のない形で制御することを目指します。


提案2.被用者保険における保険料総報酬制の導入を提案します。

 保険料徴収の平等化と合理化が必要です。

<提案の理由>
 1.医療保険の財政を安定化させるには、保険の原則から言って、患者負担を増やすのではなく「保険料収入の適正化」によって対応するのが適切です。
 2.現行制度では、月給与からの保険料率が政管健保で8.5%、組合健保で平均8.3%程度です。
 3.これに対し、賞与(ボーナス)からは政管、組合とも1%に満たない保険料率となっています。
 4.一方、わが国においても年俸制の給与体系を採用しているところが増えています。
 5.年俸制採用企業の従事者と、賞与制採用企業の従事者との間には、同じ年収であっても保険料に格差が生じることになります。
 6.わが国の健康保険の保険料率は、公的年金の保険料率と比較しても、またドイツやフランスの医療保険と比較しても低いレベルに設定されています。


提案3.薬価・医療材料価格の引下げを提案します。

 厳しい値引き交渉が行われなくなった結果、薬価・医療材料価格は高止まりしています。

<提案の理由>
 1.製薬メーカーの2000年度連結決算からは、ここ数年の薬価改定におけるR幅縮小の影響は見られません。
 2.上場15社の平均経常利益率は18%にも達しており、価格引下げにも十分耐え得る余力があります。
 3.ペースメーカーや心臓カテーテルなど、わが国の医療材料の価格は非常に高価であり、いわゆる内外価格差が指摘されています。
 4.医療保険財政の安定化のため、短期的対策として薬価・医療材料価格の思い切った引下げが必要です。


提案4.たばこ税の引上げによる公費財源の確保を提案します。

 社会保障に対する国の役割を果たすためにも公費財源の確保が必要です。

<提案の理由>
 1.憲法第25条は、国民の生存権・健康権を定めるとともに、国の社会的使命を謳っています。
 2.社会保障としての公的医療保険制度において、国や地方自治体の役割のひとつとして、公費財源の確保は不可欠です。
 3.公費財源としての税収は、国民に納得感のあるものでなければなりません。たばこ税は、喫煙者も健康に対するリスクを承知していますし、税額の引上げがあってもその分が医療に使用されるのであれば納得感があると考えます。
 4.アメリカでは、現にたばこ税が医療目的に使用されています。また、たばこの健康被害に係る訴訟で州政府が受け取った損害賠償金を州政府のヘルスケア事業関連予算に組み入れています。
 5.将来的には、医療目的のための消費税率引上げも考慮する必要があります。


提案5.一般医療保険の地域保険への一元化を提案します。

 国民が公平かつ平等に医療を受けられる医療保険制度が必要です。

<提案の理由>
 1.現在5,000にも及ぶ保険者の整理・統合が必要です。
 2.現行制度では、組合健保も市町村国保も、各保険者間の規模や保険料に格差が大きく、社会保障の原則である公平性、平等性の観点からこれを是正することが必要です。
 3.具体的には、第1段階として市町村国保は広域連合化を進めるとともに国保間での強力な財政調整システムを設けます。組合健保も財政調整を行います。次に組合健保と政管健保間での財政調整を行います。
 4.第2段階として、被用者保険と国保との間での財政調整システムを導入します。
 5.最終段階として、都道府県単位で被用者保険と国保を「地域保険」として一元化します。
 6.これによって、各保険者が一定の規模を持ち、安定的な一般医療保険制度の運営を目指すことができます。