1996年11月 日本医師会 目次 I 医療保険改革の意義(その背景と目標) (1) 少子高齢化、労働人口の減少、国民の不安への対応 II 現行制度の検証と評価 (1) 現行制度の軌跡 III 医療提供体制の再構築 (1) 診療所 IV 医療保険制度における改革案 (1) 医療財源負担のあり方
わが国の医療制度および医療保険制度は1961年の国民皆保険制度の実現以来、国民経済の成長や医療関係者の努力によって、質・量両面からの充実向上が図られ、健康指標からみても世界で最も優れたものとして高い評価を受けている。現在、国は社会保障関係費として一般会計歳出額の19%(14.3 兆円)を支出しているが、高齢社会を迎え、今後、社会保障制度全体の構造改革と財政の効率的運用が求められている。 21世紀に向かっても引き続き国民の厚い信頼を得ている国民皆保険制度を維持発展させるためは、国民の利益を損なうことなく、国民の合意のもとに「医療提供体制の再構築」、「医療保険制度の構造改革」、「診療報酬体系の改革」を推進しなければならない。 現在、各審議会等の中で議論されているような財政先行型の施策をもって医療保険制度の改革をえるのではなく、何よりも国民の健康を守る立場に立った国民の選択による自立と連帯意識をもった療保険制度をつくりあげるという基本的な理念に基づいて、日本医師会の見解を取りまとめた。
(1) 少子高齢化、労働人口の減少、国民の不安への対応 少子高齢化、労働人口の減少、社会活性の低下が見込まれる21世紀で、いかにして社会の活性を維持発展させ、国民の老後の不安を無くしていくかが重要な課題となっている。 (2) 社会の活性化と国民の健康の意義、医療・保健・福祉の一体的提供 活力ある社会基盤をめざすためには何よりも健康の確保が優先されねばならない。殊に高齢者の積極的な健康づくりとQOLの向上には医療、保健、福祉の一体的提供が不可欠であり、このことが高齢者の健康を保証するばかりでなく、関連産業の雇用を拡大し、わが国の経済発展に大きく寄与することになる。そして結果的にGDPの増大となって大きくフィードバックされることになる。 今日、国民皆保険制度は定着し、保険証1枚で何時でも何処にでもかかれるフリーアクセスは全の国民の強い支持を受けており、今後ともこの優れた制度は堅持しなければならない。一方では、今後の高度情報化社会に於いては新しい生命科学の進歩をとり入れた良質で高度な医療をどのようにして全ての国民に適切に提供できるかを考えねばならない。 何れにしても、今日の医療財源を支える国民経済の低迷は国の相次ぐ経済政策の失敗によって招来されたものである。現状では75兆円の一般会計の中で国債残高だけを見ても240 兆円以上という巨大な借金を抱えている。この財源赤字は社会保障費の急増によって引き起こされたものではない。即ち、既得権を背景とした公共事業特別会計、財政投融資など非効率な財政運営によってもたらされたも のである。経済活性化の必須条件として所謂国民負担率50%限界論があるが、国民の負担がどのようにフィードバックされるかが問題である。定義の明確でない国民負担率を使うべきでなく、また年金や医療のように明らかに結果のわかる負担については国民も納得するし、必ずしも50%限界論にこだわる必要はないのではないか。50%以上の先進国の例も検証しつつ「負担率の上昇が経済の活性を低 下させる」という一方的な考え方も、今後根本的に再検討されるべきであろう。 ―医療資源の効率的配分に向けて― 高齢社会に於けるこのような国民の医療ニーズを展望しながら、現行の医療提供体制や保険制度を検証するとき、その中に多くの改革すべき点が存在しているのに気付く。限られた医療資源を如何に効率的に配分すべきかが今後益々重要になってくる。そのためには現行保険制度の構造改革及び医療提供体制の合理的整備などに正面から取り組まなければならない。そして、国民皆保険体制を引き続き堅持し、技術革新に対応するための安定した財源を確保するために、今後、何をどう見直して行くべきかなどが早急に議論されねばならない。21世紀の医療をどのように構築すべきか、制度を統括する国や地方自治体、受益者であり負担関係者等それぞれの役割を今一度見直す意味で今回の改革の意義は極めて大きいものと考える。
(1) 現行制度の軌跡 1. 現行医療保険制度の推移 1961年に医療保障と医療保険を一体化した国民皆保険制度が創設され、1970年代にはほぼ100 %機能しはじめた。以来、制度の進展とともに疾病構造の変化、高齢化、医学・医療技術の進歩等により必然的に医療費が増加し、その結果1980年以降ほぼ2年に1回づつ医療費抑制策を目的とした改定がめまぐるしく行われている。 2. 国民医療費と老人医療費の推移 経済の急成長に乗って、1972年老人医療の無料化が行われ老人医療費は急上昇し、1982年に老人保健法が施行されるに至った。1983年からの推移をみると国民医療費は基本的には毎年5 〜6 %前後の伸びがみられている。 3. 国民医療費増加の内容 1970年代位までは検査が医療費増加の最大の要因であり、オートマチック・アナライザー、の他メディカル・エレクトロニクスと言われるような診断機器関連の技術革新が医療費増加の寄与要因であった。1980年代以降は、度重なる薬価引下げにも拘わらず、薬が医療費増加の最大要因となっている。さらに最近では入院医療費即ち看護料とか室料(療養環境料)、給食料(食事療養費)などの療養関係の費用が医療費を伸ばす最大の要因になってきている。これは慢性疾患が主体となる老人数の絶対増に伴う老人医療のシェアが拡大していることが原因と考えられる。 4. 現行医療提供体制の推移 1948年に当時の疾病構造を念頭においた医療施設の量的な整備と規制を中心に「医療法」が制定された。急性疾患が中心であった時代から高齢社会の到来、成人病を中心とした慢性疾患の増加という疾病構造の変化、国民の医療ニーズへの高まりや多様化などに対応するために1985年と192年に大幅な「医療法」の改正が行われている。 1985年の改正では、医療資源の効率的活用と医療関係施設相互間の機能連携を図ることを目的とした医療計画が策定され病院の開設や増床が制限された。これによって、病院については自由開業医制はほぼ完全に崩壊してといえよう。 1992年の改正では、医療提供施設を機能に応じて体系化する目的から特定機能病院や療養型病床群の導入が図られた。現在、要介護者の増加に対応して療養型病床群の整備、地域医療のシステム化を図るための医療提供体制の整備を主たる目的とした「医療法」の改正が予定されている。 いずれの場合にあっても、その根底には医療費の無制限な増大を法改正で何とか抑制する目的があったことは言うまでもない。 1. 国民皆保険制度下における医療サービスへの自由なアクセスが確保されていること。 2. 最新の良質な医療サービスが提供されていること。 3. 患者の負担が低額であることにより、貧富の差なく医療サービスを受けることが出来ること。 4. 社会的、経済的弱者には公的扶助の制度があること。 5. 医師のプロフェッショナルフリーダムが比較的保障されていること。 6. 各種の健康保険間における給付と保険料の格差是正が行われていること。 7. 平均寿命や乳幼児死亡率で実証されているような医療関連効果が優れているこ と。 ―医療の効率化― 1. フリーアクセスのため大病院集中がみられ、医療の効率化を阻害している面がある。 2. 医療機関の役割分担、連携が必ずしも十分でないため多受診、重複検査などの医療の非効率がみられる。 3. 医療機関、医師についての情報が不足しているため、国民が適切な医療へのアクセスが困難である。 4. 人口構造の変化によって増加している高齢者処遇体系の整備が不十分である。 5. 薬剤価格や医療材料価格の設定が不透明で、かつ医療機器価格の内外格差が異常に大きく、医療費の増大の一因となっている。 6. 適切な薬剤投与が行われていない面がある。 ―その他の改革すべき点およびあるべき姿― 1. 診療報酬体系や医療の効率化を図るあまり、医療機関のコンビニ化やスーパーマーケット化が進み、医師と患者の関係が希薄になり、医療本来の姿であるべき個別対応医療が軽視されている。医療の効率化がもたらしている反面教師の姿であり、今後是正されなければならない。 2. 医療財源を支える基盤が脆弱であるため、経済の動向によって保険制度に影響が生じ易い。従来からの低医療費政策に加えて、診療報酬が確保されず、多くの医療機関が犠牲を強いられ、療養環境整備などが改善されていない。 3. 医療サービス内容の細分化、専門化が進み、包括的医療を担うプライマリケア体制が不十分である。卒前、卒後の医学教育や医師研修カリキュラムを再検討し、かかりつけ医が地域において将来に展望を持てるような受け入れ体制を構築しなければならない。 1. 先進諸国と発展途上国、資本主義諸国と社会主義諸国、資本主義諸国の中でも北欧のような高福祉国家と自由・個人主義の米国や日本やドイツのような混合型の社会を目指している国家によっても適正な医療に対する考え方は大きく変わってくる。さらに、わが国においても国民皆保険制度の創設前と後では考え方も変わってきており、また、国レベル(行政側)、医療提供側、地域住民レベルの間でも認識には相違がある。 2. 国レベル(厚生省、大蔵省)では「適正な医療」という言葉を好んで最近使用するが、この意味にはかなり財政的基盤からの抑制的な目的が込められている。28兆円に達している国民医療費の推移、なかでも老人医療費の急速な増大という状況の中で、国の財政状況を見ながら、かつ経済の景気動向を予測しながら医療費の抑制を目的とした医療の適正化を図ろうとする。 3. 地域住民のレベルで考える「適正な医療」については個人レベルの捉え方は多種多様であるが、基本的には患者として望んでいるレベルと、被保険者として望んでいるレベルとでは大きく異なる。即ち、前者の立場に立てば費用を度外視しても質が高ければ高いほどよく、一方で、後者の立場に立てば保険料が低いほうがよい。その他、個人の嗜好、経済力、健康状態、居住地域、仕事の関係、家族構成、年齢等によって考え方は異なってくる。例えば、必要な医療機関が生活圏にない場合は、本人が必要とする医療サービスが提供されないという利便性の悪さから「適正な医療」を考える可能性がある。逆に、大都市のように医療機関への利便性に問題がない場合は、医療サービスの内容について不平、不満を持つ場合もあるし、病気の状態や治療方法についてもっと詳しく説明して欲しいし、処方された薬についての情報を知りたい等のサービスを受ける側の欲求も変わってくる。 4. 医療提供側についても、医療機関が担っている種々の役割や立場の違いから「適正な医療」に対する考え方は変わってくる。例えば、過疎地で、単独で24時間体制の下、日常診療に追われている医師にとってはもう少し時間的な余裕を持ち、もう少し専門的医療を提供することが「適正な医療」に近づけると考えるだろうし、高度先進医療に従事している医師にとっては、より全人的医療を加えなければ「適正な医療」としては不十分と考えるかもしれない。また、財政上、資本投資が困難な民間医療機関ではもっと療養環境を向上させ、療養患者のアメニティーの改善が出来ないことを悩んでいるかもしれない。 1995年5月、社会福祉・医療事業団によるアンケート調査の結果では、医療サービスの費用保障の仕組みについて76.5%が評価しており、医療サービス提供の仕組みについても87%が評価している。しかし、情報の不足や大病院への患者集中による長い待ち時間と短い診療時間、不十分な説明に対する不満など、少なからず指摘されている。 21世紀に向けての「適正な医療」とは何かについて考えを受け止めてみたが、現行の医療制度における評価すべき点をあくまでも堅持し、改革すべき点を指摘した上で、医療提供体制の面と医療保険制度の面から幾つかのあるべき姿を画いてみた。
国民が望む適正な医療を提供するためには医療提供体制の再構築を進めなければならないが、そのためには診療所と病院、それぞれの基本的な機能分担、かかりつけ医機能のあり方とその確立のための方策、病院における外来機能のあり方、地域の基幹的病院の姿、公私の病院の役割分担、急性期医療と慢性期医療等の制度的構築の必要性などについて整備していかなくてはならない。 (1) 診療所 わが国の診療所は、内科、外科、眼科等の専門性を持ちながら、地域住民に最も身近なかかりつけ医としてプライマリケア機能をも併せ持っている。超高齢社会となっていく21世紀にあっては、その重要性がいよいよ増していくことは必須である。 地域密着型の収容機能を持っているこの施設は一般医療のみならず、これからの高齢社会で必要な老人の中間施設的な機能も持っており、しかも医師としての専門性を十分に生かすことの出来る独特な施設と言えよう。今後、他の医療機関との連携を図り、後方支援施設や単科専門施設としての機能を保持し、さらに、高齢者処遇のための介護、リハビリテーション機能を合わせ持つ施設としての方向性を探る必要がある。この際、地域特性に配慮しなければならない。 地域において包括医療を提供する体制の中で病院の果たす役割は多種多様である。急性期医療対応機能と慢性期療養対応機能、プライマリケア支援機能と高度先進医療機能、介護を中心とした療養医療機能などがそれぞれの地域で求められることから、従来の自己完結型の個々の対応のみではなく、他の異なった機能を持つ医療施設との連携を図り、地域包括医療体制の整備を行う必要がある。 因みに地域の特性を踏まえた医療提供体制としては: 1. 初期医療;医療・保健・福祉の連携を図りながら、初期救急を含む、日常的に発生頻度の高い医療保健サービスを提供する体制。(診療所、有床診療所、中小病院) ・かかりつけ医機能の充実を図るために診診連携や病診連携、グループ診療、保健・福祉サービスの連携。 ・地域密着型医療ネットワークの拠点となる地域医療支援病院および療養型病床群、リハビリテーション施設、老人保健施設等の整備。 ・在宅医療を充実させ、在宅患者のQOLを向上させるために医師,歯科医師、薬剤師や看護婦などによる医療サービスが中心になるが、その他の医療関連業種等の養成も促進し、連携を深める。 ・特殊地域;地理的条件などから、都会と同じように病院を利用することが困難な過疎地や離島などの地域において、医療・保健・福祉の連携を図りながら初期医療サービスを提供する体制。 2. 2次医療圏;比較的専門性の高い領域を含め、専門的医療を重視した医療保健サービスがほぼ完結できる体制。 ・それぞれの地域内の機能に着目した基幹的病院、地域医療支援病院、介護機能の充実した病院。 ・特殊地域 地理的条件などから特殊専門的な医療機関を利用することが困難な地域の医療を支援し、特殊専門的な医療保健サービスを提供する体制。 3. 特殊専門的な医療保健サービスを提供する体制 大学付属病院、センター病院、特殊専門医療機関、救命救急センター 外来患者が病院に集中することは、その医療機能のサービスや医療の質の低下に繋がり、医療の効率化を阻害することになる。しかし、なぜ病院に患者が集中するかという根本的な解析なしでは問題の解決は困難である。地域の医療資源の有効活用や経済的視野から、病院の外来は原則紹介外来制とする方向で検討すべきであろうが、これには利用者である国民、患者側の十分な理解と納得が必要である。そのためには診療所自身の変革と国民への十分な情報提供が必要不可欠であると考える。 公的病院の役割、機能について再検討を行い、私的病院との役割分担を模索する。公的病院のあり方についての根本的検討も必要であろう。政策的医療や研究的医療、医師の研修など、民間では対応が困難な部門については公的病院が積極的にその役割を分担すべきである。 急性期対応医療と慢性期対応医療の意義付けを行い、病院の機能分化と役割分担を明確にする。その際、これからのQOLに着目して展開される在宅医療との連携は特に重視すべきであり、その在宅医療支援機能は今後の病院機能の重要な柱の一つとなると思われる。
(1) 医療財源負担のあり方 1. 国庫負担と社会保障 ・医療保障と医療保険 現行の医療保険制度が社会保障制度の重要な一環であることの認識の下では、当然国庫負担を重視すべきである。現状は保険料:公費:患者負担の比率がおおよそ6:3:1となっているが、国としては予算全体の配分の中で根本的に見直すべきである。高齢社会における健康基盤の確保の観点から、消費税等による大幅な支援を行い、医療財源の拡大を図るべきである。 ・消費税と高齢社会 大蔵省は国会で「将来の高齢化社会に備えて」という理由づけで1989年に3%の消費税の導入を求めたのであり、財政問題の解決について検討するなら、この消費税の使途について再確認する必要がある。3%の消費税は6 兆円に相当し、そのどれだけが高齢者のために使われるかを確認することは、今後の事業遂行のために重要な因子となる。 ・国庫負担の見直し 公費負担中、国庫負担は1983年の30%から現在の23%にまで低下している。しかも政管健保への国庫負担は16.0%から13.0%(老人保健については従来どおりの補助率となっているので実効負担率は14.2%)に減額されたままに放置されている。保険財政の困難なときこそ国庫負担増による医療保険制度への支援が必要と思われる。医療費は社会的に消費ではなく、人的資源を活性化させる投資であり、経済効果に好影響を与える。来年4月からの消費税2 %アップの1部を医療、保健、福祉など高齢社会の充実に当てることによって、今以上の過重な患者負担、被保険者負担は回避出来る筈である。 2. 保険料負担と給付について ・財政赤字と保険料 医療保険制度の財政基盤の60%近くを占める保険料が財政に及ぼす影響は極めて大きい。保険財政危機を回避するためには何よりも保険料の引き上げで対応するのが第一義であろう。政管健保の過去最高の保険料率8.5%であることや1991年までは8.4%であったことを考慮すると、少なくともその水準まで保険料率を引き上げるべきである。ドイツの13.5%に比してわが国では僅か8.2%(政管健保)というレベルであり、そのトレンドをみると1981年8.5%、1984年8.4%、1986年8.3%、1989年8.4%、1992年8.2%と引き下げが行われてきた。又、わが国の厚生年金保険料率は1976年の9.1%から現在17.35%と約2倍に引き上げられている。 ・料率の再検討 ドイツでは13.5%でようやく引き上げの限界を合意し、そして始めて患者の薬剤一部負担に手をつけたが、日本では未だ8.2%(政管健保)で、しかも患者負担は既に平均20%であり、これ以上患者負担のみを求めることは負担と給付の公平に反するものであり保険料率を9.0%にすることを提案する。(保険料率1.0%の引き上げは約2 兆円近くの財政効果を生むと想定される。)ドイツでは既に20年以上も前から10.0%以上の負担をしており、企業の過重負担によって経済活性が低下したという事実は聞かれていない。 3. 患者負担について わが国の国民皆保険制度最大の長所は、フリーアクセスを保障している点である。この長所を失わせないためには、全体的なバランスのとれた改革、即ち、まず保険料、公的負担の引き上げが優先されるべきであり、それでも財源の不足する場合にのみ患者負担の引き上げが考慮されるべきである。 特に老人医療にあっては、高齢者の心身の特性から疾病は慢性であり、回復力の低下から重症化、長期化し易い。高齢者の経済能力は平均としては向上しているが、健康面では弱者と考えられ、若年世代と同様の定率負担ではなく、定額負担とすべきでる。このことが早期診断、早期治療による高齢者の重症化、長期化を回避し、医療費の増大を抑制することになる。 薬剤給付率については、高薬価政策を是正せず、医療の重要な柱の1つである薬剤治療に対する抑制策を単にコスト意識から論ずることは問題である。ただ適切な薬剤投与の課題については今後とも十分検討されなければならない。 医療サービスの骨格以外の部分についての給付除外についても十分検討のうえ対応すべきである。 4. 医療保険費用負担と年金制度の整合性 現行制度では年金受給と医療受給とが重層しており、限られた保険料の中でその有効な配分と整合性は殊に老人医療においては重要である。1975年76パーミルで出発した保険料率が今や年金は173.5パーミルとなっているのに対し医療は82パーミル(政管健保)と殆ど変わっていない事実を改革して行くべきである。現在そのしわ寄せは患者と医療機関の負担となって重くのしかかっているのである。高齢者群の中には裕福な階層とそうでない階層とが混在しており、年金制度の成熟化とともに医療保険財政を支援する方向で、年金からの保険料負担、医療費負担が検討されねばならない。高齢人口の絶対的急増を目前にして、医療保険料率と年金保険料率のそれぞれの伸び率に余りにも大きなギャップを作ることは是正されるべきである。 1. 高齢者を対象とした独立した一元的な制度の創設を提案する 医療費増加の最も大きな原因となっている老人医療費の伸びは、高齢者の急激な増加とそれに伴う慢性疾患の増加による。このより多くのリスクを持った高齢者人口が急増するということは、保険という形では成り立たなくなり、そこには一定の所得移転というものが必要となる。したがって、 ・高齢者全員を被保険者とする新保険制度とする。 ・高齢者は独自に保険料を負担し、年金制度との整合性を図る。 ・社会連帯の考えから公的資金を重点的に配分する。 ・新制度の保険者は都道府県などを考える。 ・被用者保険、国民健康保険は基本的に保険原理で運営するが、国保に対しては公費による財源調整を行い、また健保組合の間にも著しい保険料や給付内容の格差が存在し、今後この格差が拡大することが考えられるので、健保組合の間にも財政調整を行う。 ・老人保健制度への各医療保険制度からの拠出金を廃止する方向で検討する。 ・将来的には、介護保険制度との連携を図る。 2. 介護保険制度の創設 高齢化に伴い介護が必要な高齢者が増加するとともに、介護の長期化や重症化が進んでおり、介護の問題は老後生活における最大の不安要因となっている。要介護者自らの意志に基づいて、ニーズに応じた介護サービスを利用できる新たな介護制度の創設が予定されている。2000年を目標に、公的介護保険制度の導入を図ることによって高齢者の心身の特性に応じた総合的な医療・介護サービスが提供される必要がある。 3. 保険者の整理・統合を図る 小さな健保組合の統合を図るとともに、保険組合の事務機構の効率化、事業内容の再検討が必要である。 4. 国民健康保険制度の改革 多くの問題を抱えた国民健康保険制度については抜本的改革を行わなければならない。 等を基本的な考え方として、老人保健制度さらには医療保険制度の抜本的改革への方向づけを行う。 医療施設の機能に着目した体系化を確立するためには、その体系をしっかりと支える財政基盤の確保が重要である。 診療所・病院にとって、医療の対価としての医療収入が基本的に医業の資本的費用、運営費用さらに医療の継続ができる拡大再生産が可能な費用を含め、合理的な対応ができる診療報酬体系が設定されなければならない。 1. 医師の基本技術(各診療科固有の専門技術)に対する適正評価 ・技術料重視(ものと技術の分離)の診療報酬体系の確立 薬剤価格、医療材料価格や医療機器価格の内外格差が異常に大きく、技術料の適正評価に結びつく医療費財源が確保されていない。 ・差益依存体質からの脱却 薬価差を代表とする差益が医療原資として認められていたが、今後、差益依存体質からの脱却を図り、技術料の適正評価を求めることが必要である。 2. 医療機能に対応した診療報酬の評価及び連携に対する評価
3. 医業経営基盤の安定化のための評価 ・医療施設の近代化や再生産費用のための診療報酬上の評価 ・良質な医療従事者の確保のための適正な処遇体系の評価 ・公私役割分担の経済的評価 公的補助、人件費と税制の検討 4. 出来高払い制を中心とした体系の確保 ・包括化されている診療報酬の見直しとドクターフィーとホスピタルフィーの分離を考慮した診療報酬体系を検討する。
医療保険制度改革について多方面にわたって論じてきたところであるが、基本的な部分について次のように要約する。 (1) 医療提供体制の再構築をすすめるべきである。その際、受療の効率化のため医療機関の情報開示を促進し、フリーアクセスの維持にも十分配慮しなければならない。 (2) かかりつけ医を地域医療の中心に据え、地域包括医療システムの中で、医療機関の機能分化と役割分担を明確化する。 (3) 適正な医師数の将来予測を再検討するとともに、早急に医師の卒前卒後教育のあり方を検討し、とくにかかりつけ医の養成を行うべきである。 (4) 現行制度の評価すべき点を維持し、適正な医療がそれを必要とする全ての患者に提供されるために皆保険制度は堅持されるべきである。 (5) 国民医療費の負担については保険料、公費負担に重点を置き、患者負担分については過重な増額は避けるべきである。 (6) 出来高払い制度は良質な医療の確保のために引き続き堅持すべきである。 一方、入院の固定費用分については、包括払い制の導入についても検討を加える。 (7) 老人医療を現行医療保険制度から分離独立させ、拠出金制度を廃止し、医療保障を中心とした老人医療保険制度を創設すること。将来的には介護保険制度との整合性を考え、老人医療介護保険制度を目指すことを提案する。 |