2001年9月25日 緊急記者会見における坪井会長発表内容
2001年9月25日
本日はお忙しい中、お集まりいただき有難うございます。
さて、本日(9月25日)、厚生労働省から医療制度改革試案が公表されました。日本医師会は9月21日の「医療改革を実現するために―日本医師会の提言―」に続き、本日、「厚生労働省の医療制度改革試案に対する意見」を発表しました。みなさんには、これらの資料をお配りしてありますが、この資料と本日の記者会見により私たちの考えおよび厚生労働省案に対する意見をご理解いただきたいと思います。
既に申し上げている通り、医療改革をするその基本的な方向というのは今回の厚生労働省の案を見ましても、はっきりいって出てこない。そういうことはわかりきったことだという前提で書いたものであるとすれば、出てこないのかもしれません。しかし、「経済財政諮問会議」あるいは「総合規制改革会議」の論議を聞いて、一番気になることは医療の原点です。要するにそれは、病気で苦しむ人達に対してへの思い、医療の持っている本質といいますか、人類愛、ヒューマニティであり、医の倫理です。
この点を基盤に据えた上で、全ての政策案を出すべきだと思います。そうでないとこれから後色々な議論をしていく上で、次元の異なる話になってしまう恐れがあります。今回の厚生労働省の医療制度改革試案も、基本的に医療のなんたるか、そしてまた医療改革がなぜ必要なのかといった哲学的な部分が希薄であると思っております。どんな改革をやるにしても、底がしっかりしてないと、単なる経済論争だけになってしまうということを、我々としては最も危惧するわけです。
日本の医療は国際的にも高い評価を受けています。特にWHOからの評価はそれを如実に示すものです。高い評価の理由は、国民皆保険制度が基盤となって、国民の医療へのフリーアクセスが保たれていることです。我々としては、今回の医療構造改革構想の中では、変えなければいけない所と、変える必要のない所をはっきりと区別して、みなさんに説明したいと思います。
厚生労働省の医療制度改革試案についてお話します。医療提供体制の改革項目に関しましては、医療の近代化・効率化ということが問われて、これを変えていかなければならないというふうな考え方だろうと思っています。これについては私もその通りであると思います。特に医療法人の組織運営のあり方についてしっかり考えるということは当然であり、私たちも同じような考え方を持っておりますので、この点は合意できると思います。
しかし、私たちは医療機関の経営改善が単なる財政問題だけで、あるいは財政的な考え方を変えるだけで良くなると考えておりません。医療は公共財であるという事をもう少し厚生労働省は考えるべきであるというふうに思っております。医療の非営利性という問題に関して、これから深く広く論議されて行くことを期待しています。しかし、経済財政諮問会議あるいは総合規制改革会議の中では全く聞く耳を持たず独走している怖さがあります。今回の厚生労働省との間では、ある程度の事は大丈夫だろうと思ってはおりますが、いずれにしろ医療の非営利性ということを前提にしながら、そういう制約をもっているということはいかに重要なことであるかということをご理解願いたい。
医療制度改革ということが今回の目玉であると私は思っておりますが、給付率の見直しに患者負担分がありますが、その負担を三割にするという話になっております。これは国民健康保険の財政的な破綻というもののために保険料として支払う金を増やし、患者の負担を増やして医療をまかなうということを打ち出しているのだと思います。
私たちとしては、この問題に関しましては医療保険の統合を考えながら、負担は二割、給付八割という方向で主張をしているわけでございますので、これは今後検討されることになるであろうというふうに思っております。保険料徴収に総報酬制を導入するというような案が出ておりますが、必ずしも私たちはそれに反対するものではありません。むしろその是正が早く上手にいくのであればとは思いますが、各財源の負担構成ということを最初にやって、その負担のバランスを考えることが医療保険制度の改革の中で非常に大きな焦点であろうという主張をこれからもしていくつもりでいます。
今回の大きな課題は、高齢者医療制度の改革にあります。日本医師会は新しい高齢者の医療制度を考え、そして財源についても考えようと主張していますが、厚生労働省案は一見類似しているものの必ずしも同じものではありません。ただ単に財政的な措置を書いているものであって、基本的に制度までという所には至っていません。例えば、私たちは老人医療に対する拠出金を廃止しようという案を提案しておりますが、これは制度の見直しをすることも試案に入れようということです。
一般に医療保険は原則として保険料が80%給付、自己負担20%、いわゆる二割自己負担で、医療の活性化を図るというような事であればこれは大変結構なことでありますが、しかしそれだけでは恐らくなかなかうまく行かない。そこで、制度改革は実行していかなければならない。また、医療の技術革新、あるいは予防医療に対しての十分な制度設計ということも考慮しなければいけないと思います。
高齢者医療に関しましては、介護保険制度があるわけですから、この介護保険制度と高齢者医療制度をどういうふうに整合させていくかというようなこと、どのような制度で整えていくかということが非常に重要になると思います。日本医師会の構造改革、高齢者の構造改革構想では、老人医療費の伸びをどのように抑えるかということに答えを出していますが、厚生労働省も診療報酬体系の見直しとか、介護保険制度の整備を図るとか、長中期的なビジョンに立った政策を打ち出さなければ意味がありません。
次に、薬価と診療報酬の見直しについてお話しします。診療報酬体系は医療機関にとっては経営上の大前提、根源的なものです。また、国民の生命、健康を守る上での重要な制度であるともいえます。社会資本である医療機関をしっかりと確保することを前提に診療報酬体系は保護されるべきであるのに、このことがないがしろにされているのが現状です。今や、医療は軍備等と同じような位置付けで、公共財として取り扱うというふうに変わってきていると私は思います。厚生労働省がどう考えているのか、今回の文書中には触れられておりません。医療を公共財としてしっかりと持ちつづけるということ、あるいはそれだけの考え方があるか、問い質したいと思っています。
私たちが出している診療報酬体系構造を、今回の医療制度改革試案の中にどう織り込むかということも大きな目玉の一つになると思っております。日本医師会に医療政策会議という会議がありまして、今回、「医療と市場経済」という報告書を作成しました。非常にまとまった、よくわかりやすい良いレポートですので、今早急にそれを印刷して、みなさんにもお配りしようと思っています。そして、私たちの医療哲学を、厚生労働省はもちろん、経済財政諮問会議あるいは総合規制改革会議にも示して、私たちは医療の本質をこのように理解しているということを出していきたいと思っております。
要するに、医療に対しては価格づけということはすべきでない。診療報酬は医療そのものが公共財、社会資本であるというのであれば、やはり価格づけとか、いわゆる市場原理の中でそれを処理するということは、馴染まないということを申し上げたかったわけです。
これは医療の宿命ですが、情報が必ずしも医者と患者の間で均等でない。我々の持っている医療情報と患者さんの情報というのは、大きな落差がある事はやむを得ないことです。このように、情報に落差あるいは質に差があるものが、市場の中で商品として売買されるというようなことはおかしい。医療は不確実性のあるもので、市場価格で処理をしようとしても無理がある。それから、公共財として認められるのであれば、これはやはり市場原理というのはあり得ないだろうということになります。
ただそれとともに競争原理という問題がありますが、このことは区別してお話しておかないといけないと思います。医療の本質部分における競争はなくてはいけない問題であります。市場原理が適用されないから競争原理も成立しないということは錯覚で、医療の中に競争原理があったから、今まで医療も進歩してきているわけです。日本医師会は今後もそういう意味で、医療の本質における競争原理を、更に促進させていくという方針をとって行きます。そういう意味からしても、診療報酬というものについては改めて、広い視野で考えるべきだと主張していこうと思っています。
包括の医療費支払方式が一番いいだろうというようなことをいっている人達もいて、厚生労働省の案でも包括払いの拡大を主張しています。このアメリカで失敗した方式を、日本に導入するということは軽軽しく発言するべきでないと私は考えております。この問題についても拙速を避けるべきとの主張を私たちはしていくつもりでございます。
薬価基準の見直しですが、薬価の価格設定に関しても思い切った方法で決めていくことを提唱して行きたいと思います。この問題について私たちの案と厚生労働省案とは、大きく変わっている所はありません。ただ安全性に関しては国民にとって重要な事ですから、議論の中で安全性について主張していくという事をしていくつもりです。
それからもう一つの大きな問題は、保険者と医療機関との契約ということですが、これを保険利益のためにやるということは、全く不安といいますか、私たちの考え方と反対のことを言っているということにならざるを得ません。私たちは基本的にこの問題には協調する気はありません。それよりもむしろ、保険者側の財務状況の公表と透明化の方が必要なことと考えます。
資料の最後部に添付してある表は、高齢者医療制度に関しての日本医師会案と厚生労働省案を対比したものです。異なる所に関して今後詰めていく予定です。両方とも極端な案ではありませんので、譲るべき所は譲り、譲れないところは譲らないといったことになると思います。
以上が、今日厚生労働省の医療制度改革試案に対する日本医師会としての考え方でございます。私は医療構造改革構想、そしてそれを具体化した「2015年の医療のグランドデザイン」などを既に発表しています。今回出てきたこの厚生労働省案に関しましては、聞く耳もたんというような態度を取るつもりはありませんが、詳細がどうなるかを見ていきたいと思います。また、みなさんもこの問題について、是非、目を光らせ監視していただきたいと思います。
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