日医ニュース 第875号(平成10年2月20日)

平成9年度医政シンポジウム

「医療に関する情報開示の諸問題」をテーマに


 平成9年度医政シンポジウムが、2月7日、全国から多数の会員の参加を得て、日医会館大講堂で開催された。「医療情報の開示」について、米国やわが国の現状、関連する法的問題などが論議されるとともに、開示以前の課題として、「EBM(後述)」による科学的、論理的な診療体制の確立が強く提唱された。

 

国民のための医療情報の開示を

 石川副会長の司会により開会し、冒頭、坪井会長は次のようにあいさつした。

 「例年、外国から講師をお招きしているが、本年は、大変日本語に堪能なジョン・キャンベル博士に米国の医療情報開示の実状について講演していただくことにした。日医は『医療情報の開示』を医療構造改革の第一の目標に位置づけ、鋭意取り組んでいる。『医療情報の開示』といっても、ただ開示すればよいというものではなく、行政や営利を追求するような人たちによって、マイナスの方向に利用されるような事態は避けなければならない。われわれは、国民の利益につながり、また、これによって、国民の医療に対する信頼と理解をいっそう深めていくような情報の開示を目指さなければならない。本日は、『これまでどうであったか』よりも、『これからどうするか』に焦点を置いて、十分なご討議をお願いしたい」。

 

EBMで診療に科学的な裏付けを

 つづいて、基調講演に移り、座長は糸氏副会長、第一席は、福井次矢京大医学部附属病院総合診療部教授の「臨床における情報伝達の質と価値」。

 福井氏は、「患者の自己決定権とインフォームド・コンセント(以下ICと略す)を尊重する立場から、医療情報の開示は不可避の状況になってきており、いかにして、どこまで開示すればよいかが重大な問題となってきている」と前置きし、次いで、「患者に対し、自信をもって医療情報として開示できる診療内容とするためには、EBMが不可欠である。

 EBMとは、『科学的な根拠に基づいた医療(Evidence-based Medicine)』で、常に、診療行為の科学的な証拠を明白にしながら診療を進めていく方法である。これからの診療では、その診療行為の妥当性を担保する確固とした証拠が求められ、さらに、その証拠の有効性が問われる。そのためには、証拠となる文献が単なる症例報告のレベルでは問題にならない。権威ある学術機関で厳正に評価され、認証された臨床例のみが記載されている文献、あるいは、それらの文献をEBMを目的に集約したガイドブックでなければならない。実際には、後者のガイドブックを用いることが多く、欧米ではすでに多くのガイドブックが刊行されている。残念ながら、わが国では皆無に近い。

 診療に当たっては、いかなる治療が最も有効であるかを決めるために、患者の症状を指標に、文献(あるいはガイドブック)を検索し、さらに現前の症例との異同を吟味する。これが、EBMの方法である。

 しかし、EBMにも限界があり、これと同時に、『患者とのコミュニケーションのあり方』がきわめて大切であるが、患者の情報の受け取り方にも、患者の性格や価値観などによって差異があり、情報開示については、なお慎重な検討が必要である」。

 

形式的なICと患者の自己決定権

 第二席は、ジョン・キャンベル・ミシガン大学政治学部教授の「患者の立場から見たアメリカ型マネージドケアの功罪」で、氏は、交通事故で医療を受けた母親の例を挙げて、「米国のマネージドケア(MNOなどの民間医療保険)では、受診できる医師にも、受けられる診療内容等にも規約(制限)がある。ICも形式的には行われているが、患者が自己決定権に基づいて診療内容を選択するための情報としては、必ずしも十分でない」ことなどを指摘し、日本と比較して米国の医療情報の開示が優れているとはいい得ない実情について報告した。

 総合討論では、森岡副会長が座長をつとめ、まず、4名のパネリストが、それぞれ問題提起を行った。

 安田恒人氏(宮城県医師会長)は「ICは、一つの精神療法」論を展開し、奥平哲彦氏(弁護士・日医顧問)は情報開示の法的側面、その現況について解説を行った。

 また、福島雅典氏(愛知県がんセンター病院内科医長)は、抗がん剤「塩酸イリノテカン」を例にとって、臨床的意思決定の根拠としての対危険便益比分析とリスクマネジメントの面から、医療情報公開の意義を論じた。

 中島和江氏(阪大医学部公衆衛生学教室)は、米国の現状を解説するとともに、日本としては諸外国の情報公開を無批判に受け入れるのではなく、情報公開に至った困難な過程における医療提供者側の苦労や試行錯誤から学んで、科学的に信頼されるデータを使用して、短期的にも長期的にも、患者も医師も満足できる医療を実現するための情報開示でなければならないことを強調した。

 


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