日医ニュース 第877号(平成10年3月20日)

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平成8・9年度日本医師会勤務医委員会答申の概要
「地域医療における医療の機能分化
―特に勤務医の在り方―」



 平成8年6月の第1回委員会において,坪井会長から,「地域医療における医療の機能分化―特に勤務医の在り方―」についての諮問を受けた.本委員会では,医療の機能分化,医師機能の分化,それに伴う勤務医の在り方等について議論を重ね,委員会としての見解をまとめたので,その概要を2回に分けて報告する.

答申概要(1)

 医療は,医学という生物学的,自然科学的な側面と医療サービスという人間学的,社会学的な側面を併せ持っている.科学研究が分析的手法で行われる限り,科学としての医学はますます細分化され,その実践である医療の場では,分化した医学の統合も求められる.
 21世紀を目前にする今日,医療における役割分担を明確にし,より調和のとれた分化と統合のなかで,国民の命と健康を守るにふさわしい医療提供体制の構築が肝要であろう.

I 序論

 医療を取り巻く環境は,少子高齢化による生産年齢人口の減少と医療需要の増大,低経済成長下の医療費の高騰,かぎりない医学,医術の進化に伴う理論上の問題,さらには国民の無限に近い医療への要求の高まりなど,大きく変化してきている.
 新しい時代の求める方向に沿って,諸問題を解決しつつ,医療の質の向上と効率化を図っていかなければならない.
 医療施設には,さまざまな形態があるが,その役割分担が明確でなく,機能の重複があり,機能分化が未熟である.そのため,本来特殊な専門医療を目指すべき高次医療機関への軽症外来患者の集中など,医療の円滑化や効率化の面からも,問題が多い.
 フリーアクセスも大事なことであるが,それぞれの機能に応じた医療施設への適切な受診を誘導することも,これからの医療にとって,重要な課題となろう.

II 医師機能の分化

 診療科の細分化,専門家が進み,現在では37科が標榜診療科名として定められている.
 大学病院や総合病院において細分化,専門化が進んできた.専門化が医療の進歩,住民の健康管理,延命に貢献していることは疑いのない事実である.しかし,一方では,多くの専門医を一施設に雇用することは経済上困難であることや,多くの専門医が,専門以外の疾患に対応できないことなどの問題点もある.
 細分化と専門化が進んだ現在の医療の見直しとして,患者中心の医療,効率のよい医療など,新たな視点から,医療機能の再編成や統合が求められている.
 医療法と地域医療計画には,病院と診療所の役割分担や連携の推進がうたわれたいるが,具体性に乏しく,現状では必ずしも沿革に進んでいない.むしろ,病院の外来患者数が増加傾向にあることは,医療の効率化を阻害している.
 思い切った施策,例えば,医療法により病院機能を明記し,大病院での一般外来を原則として禁止し,入院機能に専念するなどの措置が必要と思われる.しかし,そのためには,知識技術料,施設利用料,サービス提供料などを適正に評価し,入院医療費を合理的に体系化することにより,病院経営を健全に保つための施策が必須条件となる.

III 医療施設の機能分化

 病院と診療所の役割分担の必要性は明白である.病院は,診療所医師への施設の公開や共同利用,「地域医療連携室」の設置とその円滑な運営などを行う必要がある.
 病院と診療所が協力しあってはじめて,地域医療は効率的に機能する.特に,大きな病院の勤務医に奢りがあってはならない.
 公的病院は,その設立の原点に立ち戻り,政策医療に重点を置き,私的病院も医療の原点に帰り,公益性,非営利政を高めるよう努力する必要がある.
 大学病院は,医学研究を推し進めるためにも,先駆的医療を積極的に行い,特定機能病院としての機能評価を行うべきである.
 一般病院は,自院の診療特性を明確にして,積極的に地域の医師との情報交換を図っていくことが必要と考えられる.
 これらを円滑に行うためには,各施設に働く勤務医が,医療の現状を認識し,医療制度に関心を持つべきであり,また,国民に,より良き医療を受けるためには,機能分化と連携が必要であることも啓発する必要があろう.
 同時に,医療保険制度の合理的な改革,勤務医の労働条件をも含んだ公的病院の実態の把握,大学における医療制度や保険診療に関する教育などが必要となる.


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