日医ニュース 第883号(平成10年6月20日)

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女性医師の時代を迎えて
産婦人科女性勤務医に対するアンケート調査より

 わが国における平成8年12月の医師数は240,908人で,女性医師はこのうち13.4%といまだ少ない.しかし,医学部学生に占める女性の割合は28.2%,医学部入学者では31.4%であり,女性医師は年々増加し続けている.
 そこで,平成7〜8年に,日本母性保護産婦人科医会(日母)で行った「産婦人科女性医師の有する諸問題に関するアンケート」について解説する.これは,調査対象として,女性医師本人へのアンケートと,女性医師を受け入れる側としての医(局)長へのアンケートとの2部構成で行われ,151施設,263名の女性医師から回答があった.ここでは,紙面の都合上,女性勤務医へのアンケートの結果を中心に解説する.

回答者の背景

 独身が全体の65%,既婚の約3分の1は子どもがなく,3分の1は子ども1人,30%が子ども2人,残りのわずかが子ども3人以上で,4歳以下の子供を持つものが約半数,医師になって10年以内が80%であった.

産婦人科を選んだ理由

 学問的・臨床的魅力を感じたためが約3分の2を占めたが,女性であるメリットを生かそうと思ったという回答がほぼ同数あり,医学生からみても産婦人科が女性医師であることにメリットを感じる診療科であることがわかった.しかし,女性医師であることにメリットばかりでなく,デメリットも同時に感じるようであった.

男女差について

 男女差を感じるものは,独身者で18%,既婚者はその倍と多く,逆に,感じないと答えたのは,独身者で44%,既婚者で27.5%であった.男女差を感じるのは,肉体的に対等に勤務できないとの理由もあったが,独身者も既婚者も女性は家事,出産・育児により時間的制約があるからという理由が大きな割合を占めていた.一方,男女差は感じないと答えたものの約80%は,その理由に,「肉体的にも時間的にも対等に勤務している」を,挙げており,さらに既婚者の3分の1,および独身者の5分の1は,「男性にできない部分などで補っている」と答えていた.

当直について

 90%近くが産婦人科を選んだ以上仕方がないと考えており,ほとんどが男性と対等に月5〜14回の当直をこなしていた.わずかに既婚者の一部に当直数を少なくするなどの配慮があるようであった.

通常勤務について

 特に配慮のないことが多く,女性だからという理由で配慮の必要はないとの意見がほとんどであった.しかし,独身者も既婚者も妊娠中や出産後は配慮してほしいという意見が多く,保育園の時間外保育や,病院内保育の必要性を訴える声も多かった.ユニークなものに,学会に保育室があれば良いのにという意見もあった.この要望については,なかなか実現はむずかしいだろうと思っていたところ,平成8年秋の日産婦関東連合地方部会および平成9年4月の日産婦学会総会に託児室が併設された.これらの反響は,日母勤務医ニュースおよび日母医報でとりあげているので,ご一読いただきたい.
 臨床や教育面については男女差を感じないが,研究や学問の面でコンスタントに行うことの限界を感じるものは多く,その理由はやはり,家事,妊娠・出産・育児に集約されていた.

結婚に関する意識

 「医師であることが結婚の妨げになっている」との答えが独身の41%にあり,「妨げにならない」の31%を超えていた.また,家事に関しては,既婚女性の86%が「家事に負担を感じ,6割が夫に比較して負担が大きい」と訴えていた.

転勤,出勤について

 「医局の指示に従う」との回答は8.8%と低く,女性医師への出張人事は配慮せざるを得ない実状であろうと推測できる.また,夫への転勤命令がでたときは,「夫と相談する」が57%と一番多く,「夫についていく」が11%,「別居してでも仕事を続ける」が22%であった.

その他の意見

 昇進やポジションなど人事関係の差別,医局旅行や親睦会でのセクハラ,女性当直室がないこと,女性用手術更衣室がないことなど,まだまだ女性であるがゆえの差別というか,男性社会の側面がみられるようである.しかし,女性当直室がないという施設も多々あるようで,新入医局員の4分の1以上が女性である昨今,これらのことは病院側で早急に対処する必要があると考える.

おわりに

 女性は,その生涯の一定期間を,妊娠,出産,育児に費やす可能性をもっており,これは男性にはない女性の特性である.長い一生からみれば,この時期はきわめて短く,そのとき,女性がどんなに臨床,研究面で遅れているように見えても,必ず飛躍する時期を迎えられることを本人も周囲の人も理解していただきたい.また,その経験を生かした細やかな配慮と人間関係で,必ず男性にはできない部分を補えると思う.
 最後に,勤務環境をよくすることは,男性医師にも女性医師にも重要なことである.病院における保育園の完備や夜間保育ができる体制などは,今後ますます必要になってくると思われる.代替医師の派遣制度など,もっと国や地方自治体レベルなどの配慮や対策も必要である.適切な社会的対応や環境を整備し,女性が社会人として,医師として能力を発揮させ,快適にいきいきと仕事ができるよう私たちも努力していきたい.


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