日医ニュース 第901号(平成11年3月20日)

視点


臓器移植における
プライバシー保護とマスコミ報道

 平成9年10月に臓器の移植に関する法律(臓器移植法)が施行されて初めて,このたび脳死体からの臓器移植が行われたことについて,日医は坪井栄孝会長のコメント「法施行後初の脳死判定による臓器移植に当たって」をマス・メディアを通じて表明した(本紙3面参照).
 コメントに述べてあるように,これまで日医は,移植手術によらなければ救命できない患者さんやその家族の念願をいかにかなえるかという気持ちから,昭和62年3月の第一次生命倫理懇談会において「脳死および臓器移植についての中間報告」をまとめ,広く関係各方面の意見を聞き,さらに,慎重な審議を重ね,昭和63年1月に「脳死および臓器移植についての最終報告」を公表した.
 そこで,「従来の心臓死のほかに,患者の意思(自己決定権)や家族の意思を尊重したうえで,脳死も人の死と認めてよい」とし
た.また,臓器移植についても,ドナーとなる方の自由な意思(自己決定権)を十分に尊重するというものであった.
 このように日医は,脳死および臓器移植の問題に早くから意思表示をしてきた経緯があり,今回の臓器移植手術について,大きな関心を持ってその推移を見守ってきた.
 今後,脳死臓器移植が定着するうえで,何が必要かといえば,何よりも事実が雄弁であり,患者(レシピエント)の命が救われたという実績が積み重ねられ,移植手術の評価が定まれば,わが国の移植医療は定着すると思われる.それには,脳死判定に関する信頼感の醸成も不可欠である.
 日本と欧米での死生観の違いが,移植医療に関して本質的な問題にならないかとの質問を受けるが,キリスト教文化では,人が死ねば,魂は天国に行き,残った亡骸を物と捉える面がある一方,日本が影響を受けた仏教文化では,遺体に心的な何かが残っており,供養して成仏させねばならないと考える.その違いが,この問題への対応に差を生んでいる,といえるかも知れない.
 今回の移植手術に関する報道で,臓器提供者とその家族,移植を受ける患者のプライバシー保護の点から,マスコミ報道の過熱ぶりが問題視されている.今回のケースを反省材料として,マスコミ自身の手で,医療関係の報道を行う際の倫理的基準を作成されることを強く望みたい.


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