日医ニュース 第902号(平成11年4月5日)

日医の診療報酬体系改革案を政党に提示


 3月11日に開かれた自民党医療基本問題調査会・社会部会合同部会で,日医は,2月3日に医療保険福祉審議会制度企画部会に提出した「診療報酬体系改革(医科)に関する中間提言」について詳細な説明を行った.
 同提言に関しては,既刊の日医ニュースに概要を掲載したが,本号ではさらに,主として「財源について」(糸氏英吉副会長)並びに「新診療報酬体系について」(菅谷忍常任理事)の解説を加える.

 従来の診療報酬体系は,昭和22年に始まって以来,幾多の変遷を経てきた.当初は,個々の医療行為における技術の評価が,かなり主体的に点数表に表れていたが,度重なる診療報酬の改定を経るうちに,技術評価の陰が薄くなり,財源配分表のような形に変形されてしまい,理論的根拠があいまいになってしまった.
 日医は,このたび,改めて診療報酬体系の組み直しを図って,国民にも医療担当者にも理解しやすい体系を作成,これに基づいて今回の中間提言が行われた.(医療保険福祉審議会制度企画部会に提出した「診療報酬体系改革(医科)に関する中間提言」の概要に関しては,「日医ニュース」平成11年2月20日第899号に掲載)

財源について

 今後の財源については,その国の国力や経済力等に似合った財源の見積もりあるいは推定が,もっとも適切との観点から,国内総生産(GDP)を1つの指標とした.
 それによって,国際的比較が可能となり,日本の制度に近い国との比較もまた可能となる.
 日本の1人当たりのGDPは41,000ドルで,OECD諸国では第2位を示している(総務庁統計局'98).一方,総医療費支出についての対GDP比をみると,日本は7.3%で米国(13.8%)の約半分,順位では21位となってい
る(OECD HEALTH DATA '98).(表1)
 また,高齢化率と1人当たりのGDPが比較的近いドイツ,フランスを参考にすると,総医療費の対GDP比は1995年時点で,低く見積もっても9.2%程度となり,したがって,日本の医療費は約2%(約10兆円)アップが妥当と考えられる.
 経済企画庁の資料(表2)を基に,高齢化の真っただ中の2015年のGDPを,低めにとらえて,名目で約670兆円(成長率1.5%)と想定して,同年の医療費の設計を試みた.
 2015年の総医療費の対GDP比を9.2%(98年は7.3%)とすると,総医療費は約61.6兆円(同36・7兆円)で,国民医療費(保健・予防費用,病院建設費を除外)は約53・4兆円(同28.5兆円)となる.また,1人当たりの国民医療費は,約420,000円(同230,000円)と推計され,98年を基準にした伸び率は87%となり,高齢者人口の増加率に呼応することになる.(表3)

表1 OECD諸国の総医療費支出
対GDP比
1996
アメリカ
ドイツ
スイス
カナダ
フランス
オランダ
スウェーデン
オーストラリア
ノルウェイ
イタリア
デンマーク
アイルランド
アイスランド
ベルギー
フィンランド
オーストリア
ポルトガル
ルクセンブルグ
スペイン
ニュージーランド
日本

1  13.8
2  10.7
3  10.6
4  9.9
4  9.9
6  9.2
6  9.2
8  8.6
8  8.6
10  8.3
10  8.3
10  8.3
13  8.2
13  8.2
15   8
16  7.9
17  7.7
18  7.5
19  7.4
19  7.4
21  7.3

イギリス
チェコスロバキア
ハンガリー
ギリシャ
メキシコ
ポーランド
韓国
トルコ

22  6.9
23  6.7
23  6.7
25  6.2
26  4.7
26  4.7
28  3.8
29  3.7

表2 2015年の国内総生産(GDP)
  1996年 2015年  
0.5% 1% 1.5% 2% 3%
名目 503.1兆 553.1 607.8 667.6 732.9 882.2
実質 483.3兆 531.3 583.9 641.3 704.1 847.5

実質は1990年価格  経企庁予測

表3 2015年の医療費設計
  1996年 2015年 比率
GDP 503兆 670兆 1.33
対GDP比率 0.073 0.092 1.26
総医療費 36.7兆 61.6兆 1.68
国民医療費 28.5兆 53.4兆 1.87
総人口 125,869千人 126,444千人 1.00
0〜14歳 19707 17939 0.91
15〜64歳 87158 76622 0.88
65歳以上 19004 31883 1.65
(70歳以上) (12,447) (22,452) 1.8
(75歳以上) (7,453) (15,020) 2.02
1人当たり国民医療費 226千円 422千円 1.87

総医療費:GDP×対GDP比率で計算
国民医療費:1996年分は実績.総医療費との間で8.2兆の乖離がある.
      この8.2兆の中には保健・予防費用,
      病院建設費等が含まれていると思われる.
      2015年分は総医療費から8.2兆を差し引いたものを計上.

雇  用

 以上の想定に基づいて,2015年の医療規模に伴う雇用問題のシミュレーションも試みた.
 医療は,現在でも約3200,000人の雇用者を抱える大産業といえるが,しかし,総務庁調査では,医療1人当たりの売り上げは約9460,000円で,他のサービス業(12570,000円)の75%ときわめて低い.
 そこで,医業の労働生産性について,先に述べた2015年における国民医療費(53.4兆円)を基に,同年の医業売り上げを予測し,また,医療1人当たりの売り上げについてもGDPの伸び率を前提に計算した.
 それによると,2015年の医業売り上げは56・8兆円,1人当たりの売り上げは12550,000円となり,その結果,雇用者数は約4520,000人が見込まれて,1996年の約3200,000人より約1320,000人の増加となる.
 このことは,医業の労働生産性を改善しながら,健全な育成を図れば,医業は大きな雇用吸収力を持った産業として大いに期待できることを示している.

新診療報酬体系

 現在の診療報酬体系は,病院も診療所も1つの診療報酬体系で対応しているが,近年になって,その矛盾が拡大してきた.
 そのため,それぞれの医療機関の設置目的,機能,財源構成などに応じて診療報酬体系を再検討することが必要になった.
 そこで,診療報酬体系を一般系統と特定系統に分け,一般系統には,診療所,一般病院および大規模病院を属させ,特定系統には,大学病院と国立病院および一部の大規模病院を属させた.一般系統の診療報酬体系は,技術報酬系と薬・材料の報酬系および在院報酬系の3系に分け,特定系統の診療報酬は,入院報酬系と外来報酬系の2系とし,特定系統の病院については,病院の特性を考慮した診療報酬体系を別途確立する.すなわち,入院,外来いずれの報酬も各病院ごとの「前年度実績に基づく総枠予算制」の適用を想定し,患者1人1日当たり包括制とする.

一般系統

 一般系統については,出来高払いを原則とし,技術報酬系と薬・材料報酬系および在院報酬系の3つの体系に分ける.
 それぞれの体系について,医療機関の機能に応じて評価するが,評価の方法はすべて同じ観点から評価する.すなわち技術報酬系としては,外来の技術報酬,入院の技術報酬および在宅の技術報酬の3つに分け,さらに外来においては,診断料あるいは外来医学管理料,外来検査料等々と想定して出来高を中心に評価していく.
 入院の技術報酬についても,診断料,管理料,検査料あるいは手術料等々,それぞれに対応させて評価していく.在宅技術報酬についても,外来・入院と同様な評価体系をとり,それぞれの技術を確実に評価する.
 医薬品と医療材料の診療報酬に関しては,医薬品については薬価基準を,そして,医療材料についても,やはり価格基準を設ける方法等で,とにかく物としての市場価格を明確にする.そして,医薬品あるいは医療材料等に係る管理報酬を適正妥当に評価し,報酬として確立させる.
 在院報酬については,現在は物も技術も,あるいは入院にかかる固定費用もすべて包括して評価しているが,これを改めて,在院報酬としては技術や物の評価を別にして,入院運営上の固定的な費用を評価し,在院室料や在院管理料を適正妥当に設定する.
 在院室料には,減価償却費,地代,物的管理料等が含まれ,管理料には医療関係者の人件費,給食等の材料費等が含まれる.

特定系統

 医学教育並びに政策医療などを主体として対応している医療機関で,大学病院と国立病院のほか,一部の大規模病院も想定している.
 これらの施設は,診療報酬以外に国庫補助あるいは自治体の補助等を受けて病院の運営が成り立っている.
 そこで,これらの医療機関の診療報酬は,出来高払いとせず,総枠予算制にして対応することが基本となっている.
 診療報酬額の算定に関しては,高度な医療機能の問題,三次救急への対応状況,伝染病等に係わる診療,病診連携の状況,教育と研修その他,それぞれに対応した形で評価を行って,予算を立てていくことになる.
 なお,大学病院の医学教育および政策的医療に係る財源,国立病院の政策的医療に係る財源等については,医療保険とは別に確保される必要がある.
 具体的な評価額に関しては,既存診療報酬を新診療報酬体系に振り分け直す作業が必要になり,さらに,基本的には医療機関のコストを正確に把握して,できるだけ原価計算でテクノロジーアセスメントの手法をも取り入れ,妥当性のある評価を構築していかねばならない.


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