日医ニュース 第909号(平成11年7月20日)

勤務医のひろば

カルテ開示で思うこと



 カルテ開示なる制度が一般化すると,すべての医療行為を正確に記録することが要求されるが,現行の医療制度ではいろいろな問題があるはずである.カルテは主治医の記録という従来の考えを捨て,すべての資料は患者のものという考えにならなければ,真の意味での開示にはならないという考えもある.
 今から四半世紀前,ロサンゼルス郊外にあるユダヤ系の病院にしばらく遊学し,そこでの腫瘍外科の理想的な診療形態を見聞した.
 外科は,部長以下三名のスタッフとレジデントで運営されているが,そのいくつかのシステムを紹介する.手術記録は,手術が終わると,休憩室の専用電話で口述.これが翌日,タイプに打たれ,術者はサインするだけである.術前術後のカンファランス,画像診断の読影会も記録され,症例ごとのカルテに貼付され,これも主治医がサインするだけ.
 部長回診では,看護部長,ケースワーカー,薬剤師,秘書が加わり,症例ごとに医命を速記.副部長,医長の回診では,各自小型のテープレコーダーを持ち,患者の状況,医命を吹き込み,これがタイプされ,カルテに貼付,主治医はサインをするだけである.
 外来診療についてもすべて予約制で,診療室は個室になっており,患者は専用ガウンに着替えて待っている.主治医は入院患者と同じように順次回診,その場で秘書または各自がカルテに記入,これまたうらやましいシステムである.以上は二十五年前,米国の中規模病院のシステムである.
 日本でもその後,院外処方,病棟薬剤業務などが行われるようになったが,カルテのことについては,手術承諾書が改善されたくらいで現在に至っている.
 病棟,外来診療でコンピューターが導入され,オーダリングシステムになった今日,その実態をみると,医療事務に対してのメリットは確かであるが,医師の仕事量はかえって増えたような感さえある.
 誰に見られてもよいカルテの記録はどうしたらよいか,頭の痛い問題である.

(日本大学医師会理事 田中 


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