日医ニュース 第913号(平成11年9月20日)

勤務医のページ

大学勤務医からの医療連携への提言
東京都医師会

 平成九・十年度の東京都医師会勤務医委員会は,都内十二大学医師会より委員として講師クラスの若手勤務医が推薦を受け,発足した.このこともあり,佐々木健雄東京都医師会長より「医療連携における勤務医の役割」なる諮問を受け,大学勤務医の立場から検討することになった.
 委員会でのはじめの検討事項は特定機能病院についてであった.すでに発足から三〜四年が経過し,制度としては一応定着しているが,医療連携を行ううえでのいろいろな問題があるはずであり,また,大学勤務医としての理解と対応についても検討するため,アンケート調査を行うことになった.
 三月二十日発行の本紙「勤務医のページ」では,アンケートに寄せられた自由意見についてすでに述べているが,本稿では大学(特定機能)病院における診療と医療連携の現況について述べる.

アンケートの回答概要

 今回行ったアンケートの対象者は,平成九年十二月の時点で都内十三大学の勤務医会員四千四百五十四名で,回収率は三三・一%.その年齢構成,役職等については三月二十日号に記載しているので省略するが,現在,特定機能病院に勤務している医師が千二百三十二名,八三・六%であり,これから述べる医療連携についても,主として特定機能病院についての意見であると思われる.

医療連携についての現況と将来像

 今回のアンケート分析のなかで,標記の問題について貴重な回答が寄せられている.ここでは,二,三の項目について述べることにする.
(一)医療連携のカテゴリーでは,大学病院と診療所(病診連携)五〇・九%,大学病院と一般病院(病病連携)三五・五%であり,これらの連携の必要なことは当然であるが,大学病院同士の相互連携を望むという回答が五・九%もあり,これは医療の変化への対応として,大学の枠を越えた連携が必要であるという意見である.現に,移植や難病など特殊疾患のセンター化のことから考えられる将来像である.
(二)大学病院における外来診療の項目で週当たりの患者数は約四〇%が五十人以上,一〇%が百人以上と回答し,大学病院外来の多くが月一回程度の受診の現状から推定して,これらの医師の外来受け持ち患者数はそれぞれ二百〜四百人以上と想定される.
初診時の診療時間は約七〇%が十〜二十分以内であり,大学病院に特定機能病院として求められている専門的,先進的医療を施すには,この対象患者数と診療時間は不均衡であると解釈される.
また,他の病院や診療所への通院が可能と考えられる患者の割合は,五〇%以上とするものが三三・二%,二五〜五〇%とするものが四五・五%と約八〇%の外来担当医は,二五〜五〇%以上の患者は必ずしも大学病院に通院しなくてもよいと回答した(図1).医療連携による患者の逆紹介システムの確立(ネットワークおよび質的な連携)が重要な課題である.

図1 他の病院,診療所での通院診療可能患者の割合

(三)大学病院入院例で,大学以外での診療が可能とされた患者の割合が一〇〜三〇%以上としたものが六九%もあり,特定機能病院としての診療形態の再構築が指摘される.大学病院への患者偏向の理由として,図2に示すように,高度の先進医療,充実した診療科など,特定機能病院としての機能(五〇%〜七〇%)を挙げる一方で,いわゆるブランド志向,医療連携の不備,他の入院施設への不満などの問題点を指摘するものが(四〇〜六〇%)多数いることが注目される.この問題を是正するための方策としては,医療機能の役割分担,かかりつけ医制度,大学(特定機能)病院の診療報酬増額などの意見が示されている.いずれにしても,行政の対応を医師会による啓蒙活動に期待することになる.

図2 他病院で受診を希望しない理由(複数回答)

(四)医療連携についての情報交換については,いまだ不十分であるとの指摘がある.これについては,医療情報開示について検討されているが,いわゆるカルテ開示の将来として,患者を含めた連携医間の伝達にまで発展すべきであり,また,現在,検討されている電子カルテにもつながる問題である.
(五)医師会に対する要望の自由意見として,医療連携に必要な情報が少ない,新しい効率的な連携システムの導入を期待する,との意見が多くみられた.


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