日医ニュース 第917号(平成11年11月20日)

勤務医のページ

勤務医座談会その2
医師会の組織強化

 日医勤務医委員会は,坪井栄孝会長からの諮問「医師会の組織強化への勤務医からの提言」についての検討を行っており,現在,答申作成中である.今回の座談会は,地域で活躍している勤務医の意見を答申に反映させるべく企画したものであり,3回に分けて掲載していく.前回の「勤務医の医師会入会促進」に続いて,今回は「医師会における勤務医の役割」を掲載する.

医師会における勤務医の役割

池田 次に,医師会のなかで勤務医がどのようにかかわっていくか,その役割についてお話し願いたいと思います.
三橋 勤務医の役割としては,病病連携,病診連携が基本で,医師会に入ることによって開業医の先生と顔見知りになれます.それから,地域住民への教育講座を病院が行うことも必要であると思います.
 そして,郡市区医師会のなかで開業医の方と一緒に研究会,症例検討会を行うことで,勤務医の活躍の場ができていくはずです.
武内 盛岡市の例を取ってみますと,検診などを通して,開業医との連携はかなりできているのではないかと思います.もう少し積極的に,開業医の先生が勤務医を取り込むというか,どんどん研究会,検診事業などいろいろなところに引っ張り出して,そして,人の顔を覚えて,そこから始まって少し発展していけると考えています.
 それから,うちの病院は紹介状をもらったら,必ず返事を書くということを一〇〇%目指してやっており,そういう小さなところから少し関係がよくなっていくような気がします.
三宅 開業医の先生方は個人経営の立場にあるため,経営が成り立たなくなると非常に困ったことになるので,やはり保守的にならざるを得ません.われわれが,報道機関の報道を通じて見ている医師会の活動は,保守的であり,権利を守ろうとする団体として現れています.
 これでは,医師会が何をしているか国民には非常にわかりにくく,自分たちの保身のためだけに行動しているような印象を受けざるを得ないのです.
 将来の日本の医療がどうあるべきかを考えることができるのは,自由な立場にある,客観的なものの見方のできる勤務医であると思います.
武内 三宅先生のお話のとおりですけれども,たぶん,私たち勤務医にも責任があると思います.関心を持たな過ぎるというか,ただ,お任せするのではなくて,そのあたりをどうやっていくか,医師会としての一つの役割かもしれません.
杉山 日医と県医レベルの間では,取り扱う問題に大きな溝があるように思います.例えば,病診連携というのは,地区,県レベルまでの段階では大切なんです.
 しかし,医療の将来ビジョンというのは,とても県医レベルの話ではないですよね.
 そうすると,現場で一番いろいろなことに直面している医師の意見を日医のどこで反映させるのか.そこのパイプが,どうも県医の段階で止まってしまって,県医から上がる話は現場とはおよそかけ離れた部分ではないでしょうか.
 ですから,例えば,日医の代議員を勤務医と開業医の数で比例した形で出せるようになったときには,現在,勤務医が不満に思っている問題は,少なくとも解消しやすいように思います.入会促進をするのなら,そこらあたりの不満をクリアできない限りは,なかなか日医には入らないのではないでしょうか.
 ただし,県医,および地区医師会は,当然身近な診療の,特に病診連携という意味ではかえって交流を密にする必要がありますし,現実にほとんどが県医あるいは地区医師会に加入して,かなりの役割をこなしています.
 ですから,入会促進の問題も含めて,勤務医が役割を果たす医師会というのは,どこのレベルの医師会を指すのかということを,分けて考えないといけないという気がいたします.
池田 では,日常的な診療,地域医療にかかわることについては,県および郡市区医師会,大きな意味で,国民医療の舵取りをしていくとか,将来の医療のあり方を決めていくというのは,日医の役割と分けて考えてください.
森下 開業医の先生と話をすると,送った患者さんの手術はどうしたんだとか,いろいろな新しい情報のなかで,どれが本当に必要な検査や治療かなど,ずいぶん役に立つ部分もあります.
石川 私は東京医科大学の医療連携室の副室長ということで,大学病院と地区の先生方との医療連携の実務をしておりますが,大学病院にいらした患者さんがなかなか帰ってくれないという部分が多いですね.できるだけ患者さんを診療所にお返しするように努力はしていますが,われわれには,どの先生がどのぐらいのレベルのフォローアップをしていただけるのかがわからないのです.
 今までの紹介,逆紹介というのは,医局から退局されて開業された先生からの紹介だけでした.そういう形の医療連携ではいけないわけですが,一方,地区医師会となると,先生方のやれることとやれないことの情報がわれわれには全然ありません.
 大学それぞれが医局単位の情報はあるのだけれども,地区医師会等の情報がないということで,これをまず整備しないことには,医療連携がうまくいかないだろうという意見が出ております.地区医師会の先生方と表面的なお付き合いをするだけではなくて,中身の濃い,実際には何ができるのかというところまで話ができるようなコンタクト,インターネットなどを使った情報交換というのが必要になってくるのではないかと思っております.
杉山 鳥取県東部医師会の場合は,勤務医の専門領域の一覧表を各病院ごとに取りまとめたものをつくって,開業医の先生に流すことで,それを病診連携に有効に使えるようなネットを作ろうということで,今やっております.
森下 厚生省に要求するときも,開業医の先生だけだと,外来中心の考え方になりやすいので,勤務医が,手術や入院関係など,いろいろなことで相談しあえば,バランスのいい要求ができます.
三宅 病院はかなり専門化してきましたが,病状が安定しているときの受け皿である診療所は,すべての患者さんを受け入れる形式になっています.これでは,病院側が安心して患者さんを任せることはできません.
 そこで,診療所側もある程度,専門化する方向も必要だと考えます.開業医もシステム化して層別にすることによって,初めて病診連携はできるものだと考えております.
 そして,病院内のカンファレンス,症例検討会などをオープンにして開業医の先生方に来ていただいて,切磋琢磨していくようにすれば良いと思います.
 つまり,病診連携というのは患者さんのやり取りだけではなくて,知識のやり取りも,そこでできる形にして,お互いに研鑽していこうという気持ちがないと無理だと思います.
森下 日本だと,スーパースペシャリストが育ちにくいような素地があると思います.
 アメリカだと,例えば,泌尿器科医では,開業医である程度上級開業医と称すると,一日に五人から七人診れば十分ペイするわけです.だから,自分の得意なものは受けるが,そうでないものは受けないという形で,ある程度医師の側からもセレクトできるわけです.向こうは競争も激しいのだけれども,ある程度その競争に勝って地位を得ると,それなりの報酬がもらえるので,他のものを断っていてもそれだけ診れるという,制度的なゆとりがあるわけです.
 日本の場合はそれがないから,結局みんな受けてしまい,自由がきかない形になって,患者さんを診る時間がなくなってしまいます.
石川 今,各学会で専門医制度がありますけれども,学会によって専門医になるレベルがいろいろ違うんですね.非常に厳しい試験をしている学会もあるし,書類審査だけで専門医になれるというところもあります.
 ですから,本当にできる人かどうかを見極めるのは主治医の責任で,患者さんをともかくお送りするというスタイルにしないと,制度が云々とやっていると,非常に時間ばかりかかってしまいます.
 私がもう一つ申し上げたいのは,やはり患者さんが診療所へ行きたがらないという部分があるんですね.患者さんがブランド意識を持っている.これを払拭しない限り,地域の医師会の先生方と勤務医が協力していろいろなデータベースをつくってやったとしても,医療連携というのはなかなか実らないのです.
森下 患者さんが大きな病院に来るというのは,一つには,大きな病院に来ると複数の科にかかりやすいこと.
 それから,もう一つは,複数科の受診で開業医の先生にバラバラにかかるよりも,初診料・再診料が一科しかとれない病院にかかった方が安いということがあります.また,初診料・再診料そのものも病院の方が安いので,その差は大きいと思います.

出 席 者
(司会)池田 俊彦 福岡市民病院院長
石川 幹夫 東京医科大学心臓血管外科講師
杉山 長毅 国民健康保険智頭病院院長
武内 健一 岩手県立中央病院診療部次長兼呼吸器科長
三橋 公美 札幌社会保険総合病院泌尿器科部長
三宅 忠夫 大阪府立病院免疫リウマチ科部長
森下 英夫 長岡赤十字病院泌尿器科部長
西島 英利 日本医師会常任理事


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