日医ニュース 第919号(平成11年12月20日)

勤務医のページ

勤務医座談会その3
医師会の組織強化

 日医勤務医委員会は,坪井栄孝会長からの諮問「医師会の組織強化への勤務医からの提言」についての検討を行っており,現在,答申作成中である.今回の座談会は,地域で活躍している勤務医の意見を答申に反映させるべく企画したものであり,これまで2回にわたって,その内容を掲載してきた.今回はその最後として,「国民にわかりやすく,信頼される医師会のために」を掲載する.

国民にわかりやすく,信頼される医師会のために

池田 今日の話や勤務医へのアンケートでも,医師会は開業医の利益擁護団体だと思っているという意見がよく出ます.
 しかし,実際には医師会は公益社団法人であり,構成員のために利益をもたらす団体ではない.国民のためにいい医療をするという仕組みをつくるための団体です.その理念や医師会の目標が,国民にもマスコミにも,会員にすら十分に徹底していないのではないかと思うのです.
 どうしたら国民のために医師会が頑張っているということが,わかるのかというお話を最後にお願いします.
三宅 実はそのためにも,勤務医と開業医を分離することは,賛成できないのです.報道機関から流れてくる情報のほとんどが,開業医を主体にした利益集団としてしか漏れてこない.大阪の勤務医部会におりましても,日医の真の行動というのは見えてこないのです.
 つまり,日本の将来の医療を患者さん自身の立場に立って,限られた費用のなかでどういうような治療をしていくのが一番いいのかを考えていく.自分たちの保身の議論ではなくて,日本の医療をどのようにわれわれが担っていくのかを考えるような提言を常にしていくことによって,国民にわかりやすくて信頼される医師会というものができ上がると思うのです.
 今の日本の医療では,病院があって,医師がいて,患者さんがいる,という認識を持っている医師が多いと思うのです.そうではなくて,患者さんがいて,医師がいて,病院があり,医師会があるのです.そういう観点に立った発言,行動であれば,やはり,信頼の置けるようなものになっていくはずです.
石川 信頼されるためにはディスクローズしないといけないと思います.例えば,昨年,大阪で某病院が非常に悪い環境で医療をやっていたということでマスコミにたたかれましたが,それに対して,医師会が調査をして,処分をしたという話は聞こえてきません.
 また,大学病院での患者さんの取り違え事件について,医師会が自己調査をして,看護婦がなぜあのような行為をしてしまったのかということ,看護婦の勤務時間がこれだけ超過していること,今の医療状況であれば,あそこの人員は一人しか割けなかったというようなことを弁護したという話を聞いていないのです.
 マスコミは医師の悪いことしか書かないのですから,常にウオッチャーがいて,それに対する反論,あるいは本当に悪かったならばこういう処分をしましたという対処を早く,タイミングを逸さずにやってくれない限り,国民に対しては納得してもらえないと思うのです.そのうえで,これだけの医療をやるには費用がかかるんだということを,やっぱりいわなければいけない.
杉山 結局,信頼される医師会,国民対医師会という構造では個々の顔が見えません.個人的な名前が出れば,信頼ということがいえても,医師会と国民という構図でとらえたら,なかなかお互いに顔が見えてこない.
 ただ,患者さんと主治医の一対一の関係だといくらでも信頼が構築できるんです.そのなかで,主治医の集団である医師会という形に持っていかざるを得ないでしょう.
三橋 札幌市医師会内には,各区の医師会があり,そこでは地域住民に対して,市民教育講座,健康教室などを行っていますが,そういった医師会の活動をしていくことが必要だと思います.また,医療情報を伝える広報紙を出すというようなことも必要です.
 それから,医師会全体として,ディスクロージャーは非常に大事なことで,率先して情報公開をしていくべきです.そのための組織をきちんとつくって,各マスメディアに対して,日医は常に情報を公開していくことが大事だと思います.
森下 日本の場合は,医療の情報開示にしても,本当の意味でのディスクロージャーではなくて,何かおいしいところだけ出して,まずいところは出さないというような部分があるので,信頼されるというのは,なかなかむずかしいと思います.
 ただ,西欧では,消費税を一五%から二五%でようやく福祉を支え,六十五歳以上はもう延命しないとか,六十歳以上だと透析しないというような非常にシビアな国もあります.そういう部分も,これから少しずつ医師会のほうで広報活動をして,甘いところだけではないというところもぜひ教えていっていただきたい.
三宅 文化のない国は存在しないと考えます.文明を受け入れるとき,国民に根付いた文化にあった形式で取り入れるべきなのですが,厚生省だけじゃなくて,日本全体が,外国の意見をすべて鵜呑みにして,全部その施策のなかに入れていくということをしています.
 日本なりに消化してから取り入れることが実は必要であるのに,外でやっていることを咀嚼しないで,すぐ取り入れようとすることが非常に多いですね.こういったことを正していく役割も勤務医にあると思います.
池田 医師会というのは顔が見えてこない,個々の医師であればというようなお話がありましたけれども,やはりそうだと思いますね.医師会という組織が信頼されるためには,個々の患者さんに接する医師一人ひとりが,いい医療,誠実な医療をするなかで,医師会も見直されてくるだろうと思います.そういうことで,危機管理,情報開示の問題を含めて,日医の勤務医委員会では,今,検討している最中です.
 今日はたいへん貴重なご意見をありがとうございました.
西島 日医の柱というのは,医師が安心して医療が提供できる環境づくり,そして,国民が安心して医療サービスを受けられる環境づくりと考えております.つまり,医療政策提言集団であるということです.
 勤務医の先生方が自分たちの考えを通そうと思えば,やはり,勤務医の先生方も積極的に日医に入ってきていただいて,いろいろな提言をしていただくことだと思います.それが自分たちの環境をいい方向へ持っていく最短の道であろうと考えております.
 ディスクローズの話が出ましたが,日医は理事会の記録をすべて日医雑誌で公開しております.また,日医および日医総研ともにホームページを設け,さまざまなデータ,提言等を入れております.掲示板も設置しておりますので,ご意見を入れていただければ,担当常任理事が目を通します.そういう意味で,日医が一番開かれているということを,今日を機会にご理解いただければと思います.
 本日はどうもありがとうございました.

出 席 者
(司会)
池田 俊彦
日本医師会勤務医委員会委員長
福岡市民病院院長
石川 幹夫 東京医科大学心臓血管外科講師
東京都医師会勤務医委員会委員長
杉山 長毅 国民健康保険智頭病院院長
鳥取県東部医師会勤務医部会副会長
武内 健一 岩手県立中央病院診療部次長兼
呼吸器科長
三橋 公美 札幌社会保険総合病院泌尿器科部長
札幌市医師会理事
三宅 忠夫 大阪府立病院免疫リウマチ科部長
大阪府医師会勤務医部会常任委員
森下 英夫 長岡赤十字病院泌尿器科部長
新潟県医師会勤務医委員会委員
西島 英利 日本医師会常任理事


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