日医ニュース 第922号(平成12年2月5日)

日医総研フォーラム4
医療廃棄物の処理に関する諸問題

医療廃棄物については,処理方法や業界の現状等さまざまな問題点が指摘されている.今回,それら問題点および現状,今後の課題について考察してみた.

◆ 医療廃棄物の位置付け ◆

 現行の廃棄物処理法では,廃棄物は一般廃棄物と産業廃棄物に区分される.産業廃棄物とは,事業活動に伴って生じた廃棄物で,かつ,法および政令で定められたものをいう.産業廃棄物以外の廃棄物が一般廃棄物である.さらに,人の健康または生活環境に係る被害を発生する恐れがあるものを特別管理産業廃棄物および特別管理一般廃棄物と呼ぶ.感染性廃棄物は特別管理廃棄物の1ジャンルである.感染性廃棄物は,一般廃棄物と産業廃棄物を一括して収集,運搬,処理することが認められている.一般廃棄物の処理は自治体の責任とされ,産業廃棄物の処理は排出者の責任とされる.

 医療廃棄物は医療にかかわるすべての廃棄物と定義すると,医療廃棄物の位置付けは図1に示すようになる.欧米諸国では,医療廃棄物は一つの概念としてくくられており,それが危険度によって分類されている.
 廃棄物のうち,血液,血清,血漿,体液(精液を含む)などや,それらが付着した廃棄物が感染性廃棄物である.感染性廃棄物は,医療機関のみならず,一般家庭からも排出されており,一般家庭から排出される感染性廃棄物の量の方が多いという報告がある.今後,在宅医療,在宅介護の進展とともに,一般家庭から排出される医療廃棄物はさらに増加していくと考えられる.

コラム 分別の必要性について
 廃棄物処理の立場に立てば,処理方法によって分別の方法を変える.医療廃棄物は,感染性を考えるとリサイクルが難しく,現時点ではまとめて溶融分解することがもっとも合理的であると考えられる.この意味では分別する必要はない.しかし,院内での事故防止の観点からは,分別を徹底する必要がある.また,廃棄物の全体量を減らす必要性から,医療器具,医療材料の再利用を追求する必要があろう.

◆ 医療機関における廃棄物処理の実態 ◆

 従来,病院では廃棄物を院内で焼却処理する例が多かったが,最近の厚生省の通知により,院内での焼却は事実上不可能となった.現在では,ほとんどの医療機関が廃棄物処理を外部の業者に委託している.(グラフ)

 医療機関から排出される廃棄物のうち,感染性廃棄物は,30〜40万tと推計されている.感染性廃棄物を院内で高圧蒸気滅菌器などによって滅菌処理を行い,一般廃棄物として処理することを試みた病院もあったが,数カ月で断念している.
 廃棄物の滅菌に使う滅菌器は,通常の滅菌器と違った特殊な構造とする必要があり,相対的に高価な機器を導入することになる.さらに,運転にも特別な注意が必要であること,滅菌後の廃棄物の処理にかかるコストが滅菌しない場合とほとんど変わらないことなどから,処理にかかるコストが高くなり,医療機関内で滅菌処理を行うことは非現実的といって良い.

◆ 医療廃棄物処理業界の現状 ◆

 平成元年に「医療廃棄物処理ガイドライン」が制定されて以降,医療廃棄物処理事業に約1000社が参入したが,ダンピング競争が起こった.適正処理価格は1kgあたり300〜350円といわれている.しかし,1kgあたり20円以下で落札される例もあるといわれている.このように処理単価がダンピングされることが,不法投棄が後を絶たない一因ともなっている.業界の自浄を促すため,全国産業廃棄物連合会医療廃棄物部会では「医療廃棄物適正処理推進プログラム(ADPP)」を展開,現在約70社が参加している.
 感染性医療廃棄物の処理方法としては,焼却がもっとも一般的な処理方法となっている.焼却処理は重量で約1/6,容積で1/10〜1/20に減容されるといわれている.また,焼却条件を選べば,ほとんどのものが無害化,安定化が可能である.したがって,焼却は日本における廃棄物処理の優れた方法であるといえよう.最近は,熱分解ガス化溶融法が次世代の焼却処理技術として実用化されつつある.また,感染性廃棄物をマイクロ波で加熱溶融する方法も試みられている.

◆ 医療廃棄物の処理費用と処理責任 ◆

 全国産業廃棄物連合会医療廃棄物部会の試算では,容器や運搬,焼却などのコストから,医療廃棄物1kgあたり300〜350円の処理コストがかかるという.感染性廃棄物の発生量を年間30万tとすると,900〜1050億円の処理費用がかかることになる.
 医療廃棄物の処理の責任とコストをどう分担するかが問題となる.
 事業の副産物としてみれば,医療機関が処理責任を負うべきである.しかし,医療機関は原則として医療保険制度のもとで運営されており,医療保険制度は国の社会保障制度の一環であることから,国の責任は見逃せない.
 一方で,在宅医療・在宅介護の進展にともない,紙おむつや各種医療器具の家庭からの排出が増加している.また,患者は医療機関で何らかのサービスを受け,そのサービスの一環として廃棄物処理もあるとも考えられる.したがって,医療サービスを受ける患者(国民)の受益に応じた負担も必要と考えられる.使用後は,処理困難な廃棄物となる医療材料・器具を製造するメーカーにも処理責任はあると考えられる.

◆ 省庁再編と医療廃棄物管理 ◆

 医療廃棄物の危険性の一つとしてその感染性があげられる.医療廃棄物を医療活動の副産物ととらえ,医療機関内外での感染を防止するという観点に立てば,医療廃棄物は他の廃棄物と切り離して管理する必要があると考えられる.ところが,廃棄物処理のための基本的な法律である「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」は,現在は厚生省の所管であるが,省庁再編により「環境省」の所管となることが決まっている.一方で,医療廃棄物の主たる排出元である医療機関の指導・監督は「厚生労働省」の所管となる.感染症対策もまた「厚生労働省」の所管である.このように,所管が分離することは好ましくない結果をもたらすのではないかと懸念される.

◆ 今後の課題 ◆

1)医療廃棄物の定義と分類
 現在の日本の分類方法では,現場に無用の混乱をもたらすばかりである.WHOの分類に従うなど,新しい分類方法を確立する必要があろう.

=WHOによる医療廃棄物の分類=

(1)一般廃棄物(事務系)  (2)病理系廃棄物(組織,臓器など)
(3)感染性廃棄物  (4)損傷性廃棄物(刃物など)
(5)化学系廃棄物  (6)放射性廃棄物  (7)爆発性廃棄物

2)感染性廃棄物処理業者の選択基準の作成
 医療廃棄物の安全な処理のためには,作業員の教育,妥当な処理施設の設置とその的確な運用が不可欠である.しかし,医療機関の側からは,どの業者に依頼すれば適切な処理が行われるか不明である.そこで,医療機関の代表,廃棄物処理業者の代表,学識経験者からなる第三者機関を作って,業者選択の基準を作るのも一案である.
3)処理責任とコストの分担
 処理費用の負担方法については,診療報酬に上乗せする,施設利用料などの形で患者に負担を求める,医療器材のメーカーに負担を求めるなど,さまざまな方策が考えられる.家電製品では,メーカー,販売店,消費者がそれぞれ責任を分担し,費用を負担する制度が作られている.同様な制度が医療廃棄物に関しても必要ではないだろうか.
本稿の執筆に当たって,「医療廃棄物適正処理システム研究会」にて作成された各種資料を参考とした.資料を提供していただいた,関係各位に深く感謝する.

(日医総研主任研究員 岡田武夫)

ご質問・ご意見はFAX 03-3946-2138 E-M jmari@jmari.med.or.jp


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