日医ニュース 第932号(平成12年7月5日)

ポリオワクチン禍
日医
不活化ワクチンの導入等を強く要望へ


 本年,日本の属する西太平洋地域のポリオ根絶宣言を準備中と伝えられているなかで,福岡県に発生した二例のポリオワクチン接種後のトラブルは,確かに国中を震撼させた.
 厚生省公衆衛生審議会感染症部会と中央薬事審議会医薬品等安全対策特別部会において,ワクチンそのものの品質・安全性には問題がないことが確認されたが,福岡県に発生した一歳一カ月の男児は,ワクチンによる副反応と認定され,その後に発生した宮崎県の三十七歳の男性も,ワクチン接種した娘からの接触感染によるポリオと確認された.
 ポリオワクチン接種については,生ワクチンを使用する場合は,麻痺を起こす副反応が約四百四十万人に一人,接種者からの感染は約五百八十万人に一人と統計的に報告されている.現に日本でも前者で,一九七七年より一九九四年の発症を最後に十二例の麻痺性の副反応が報告され,後者では一九八〇年より一九九三年を最後に九例の接触者感染によるポリオの発症が確認されている.現在,毎年約百二十万人が二回ずつワクチン接種を受けている現状を考えると,二〜三年に一人ずつは両者によるポリオの発症が予測されることになり,これを容認しておくわけにはいかない.
 西太平洋地域においては,最近の三年間には野生ウイルスによるポリオの発症は皆無である現状で,今後,いつまで現在の接種方法を継続すべきかどうかの議論を早急にする必要があろう.また,すでにアメリカ,カナダ,フランス,その他北欧諸国で実施され,副反応がきわめて少ないといわれている不活化ワクチンの導入も早急に検討しなければならない.
 さらに,接触感染によるポリオの発症については,ワクチン接種者の糞便,または,咽頭分泌液から排出されるウイルスから経口的に感染することが明らかであることから,接触者の糞便や吐物の処理,特に,接触者の手洗いの徹底等について十分理解できる情報提供を実施し,発生率ゼロを目指して努力をしなければならない.
 ジェンナーが種痘ワクチンの開発中に,周囲の理解・協力が得られず,息子を実験に使った話は有名であり,その後種々の予防接種が人類に大きな恩恵をもたらしたことは,だれもが認めるところである.
 しかし,すでにポリオ根絶後久しい日本で人命尊重の面からも,例え五百万人に一人でも犠牲者を出すことを容認することは許されず,早急に日医では,常設の感染症危機管理対策室会議を招集し,今回の緊急事態につき,次の二点について申し合わせた.
 (1)不活化ワクチンの導入を強く要望すること.
 (2)接触者感染を絶滅するために,ワクチン投与についての十分な情報提供を徹底すること.


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