日医ニュース 第937号(平成12年9月20日)

視点

交通事故のけがは自賠責で

 八月十七日付朝日新聞に「交通事故のけが 健保が使えます」という見出しで自賠責保険についての記事が掲載された.その内容をお読みになった方はさぞ驚かれたろうと思う.実際に取材を受けて,日医の見解を話をした者にとってはびっくり仰天である.
 この件について,記者が日医に来館して,自賠責についていろいろな質問を行い,それに対して懇切に説明をしたが,その結果があの記事となって報道された.もちろん,医師会以外の団体,識者にも取材したとのことであるが,医師会の考え方をまったく理解せず,どうも何かを意図的に作文したとしか考えられない内容である.
 日医は,従来より,次の二点の考え方を明らかにしている.
一,交通災害に対する診療は,災害医療の範疇に属するものであり,一般傷害に対する健康保険診療と異質のものである.
二,ひき逃げ,または無保険者による場合を除き,自賠法優先を認めるべきであり,行政上の取り扱いも,できるだけ自賠法の優先適用という方向をとらなければならない.
 これらは,昭和四十四年十月に公表したもので,現在も,この考え方になんら変わりがない.
 健康保険は相互扶助保険であり,自賠責保険はユーザーに義務的に課している被害者救済を目的とした補償保険である.そして,自賠責基準案は国会の要請により,自賠責審議会を経て,日医,損保協会,自算会の三者により作成されたもので,審議会に答申して,現在三十八都道府県で実施されている.その基本は被害者救済であり,特別の事由がない限り基準案優先である.
 また,交通災害の救急医療の八〇%を民間医療機関が行っているが,救急医療は不採算医療ともいわれ,空床の確保,救急時の人員の確保と待機,医療機器の高額化など,その運営にはたいへんな努力をしている.
 マスコミは,このようなことを正しく理解して,一般国民の啓発をすることが重大な責務ではないだろうか.


日医ニュース目次へ