日医ニュース 第938号(平成12年10月5日)

苦情・相談受付窓口業務のための講習会
実務処理での問題点を討議


 苦情・相談受付窓口業務のための講習会が,九月十三日,日医会館大講堂で開催された.
 冒頭,坪井栄孝会長があいさつし,次のように述べた.
 「現在のところ,相談窓口は四百七十五カ所に設置されている.相談窓口の運営に関しては,励ましの声とむずかしさの声との両方が聞こえてくるが,国民医療のためには,取り組まざるを得ない課題だと考えている.また,医療安全推進者の養成講座を立ち上げて,定期的にこの問題について議論を深めてゆきたい」
 つづいて講習会に入り,最初に「法律学概論」(前田正一・九州大学大学院医学研究院医療システム学教室研究員)が行われ,「苦情・相談受付窓口がなぜ必要なのか」「医療行為と法」について概説した.特に,窓口設置の大きなメリットとして,裁判による紛争処理の弊害(裁判の長期化,高額な費用,医師・患者関係のさらなる悪化など)を未然に防止できると指摘した.
 「医師賠償責任保険論」(高岡正幸・日本医事法学会員)では,日医の医賠責保険制度の仕組みや会員資格の有無など,基本的な事項が正確に理解されていないことが指摘された.
 また,数年以上を経過した,過去の医療行為について提訴されることがあること,裁判が長期に及ぶと実際の賠償金額に遅延損害金が上乗せされることなど,現実の医賠責保険の姿について詳しく説明した.
 「紛争・訴訟予防論」(信友浩一・九州大学大学院教授)では,診察においては,専門医と主治医は違う人間が担当し,相互牽制して治療プランを作ることが,医師と患者の信頼関係の形成や紛争・訴訟の予防につながると強調した.
 そのためには,診療する医師が,同僚の医師の倫理観を把握し,所属組織で掘り下げ,苦情を訴訟に発展させないようにする必要があり,医師と患者間に一体感が生じるか生じないかが訴訟の原点であることを指摘した.
 「リスクマネジメント概論」(鮎澤純子・東京海上メディカルサービス(株)メディカルリスクマネジメント室次長)では,リスクマネジメントは本来,「組織がその使命や理念を達成するためのものでなければならない」ものなので,組織レベルのリスクマネジメントの構築が必要となることを指摘した.
 リスクマネジメントがリアクティブからプロアクティブへと考え方が変化している現在,事故が起きる前に反応するアプローチの必要性を強調した.
 「情報開示と個人情報保護」では,西島英利常任理事が,個人情報保護基本法の制定への動きについて説明し,「医療が基本法の対象となれば,医学医療の発展の妨げとなりかねない.今後は,医療が法律の適用外となるよう,積極的な活動を展開していく」と述べた.
 「医療と消費者契約法」では,石川高明副会長が,消費者契約法が来年四月から施行されることを踏まえて,「万一,問題が起きた場合には,都道府県医師会に設置してある診療情報提供推進委員会に相談してほしい」と呼びかけた.
 最後に,参加者との間で,活発な意見交換が行われ,会は終了した.


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