日医ニュース 第940号(平成12年11月5日)

視 点

EBMに基づく診療ガイドライン


 最近,EBMに基づく診療ガイドラインの必要性が各方面で論議されている.しかし,今までも医療現場がエビデンスなしに診療を実施していたわけではない.各医療機関,各医師がエビデンスを収集蓄積し,それを評価して現場の特性にフィードバックさせ,各医療機関の方針(ガイドライン),あるいは各医師の方針(ガイドライン)が随時決定され,それに基づいて診療が行われている.このことは,今後も変わるべきものではない.そもそも,医療とは個別性が強いものであり,いかなるガイドラインも患者の個別の状況や価値判断を排除するものではない.これこそが,医師の裁量権である.
 現在,厚生省によって官主導型の診療ガイドライン作りが企図されている.それは,医療の現場や患者の状況を考慮しているとはいいがたく,「上意下達」的なガイドラインとなって,医師の裁量権を著しく損なう危険性がある.
 このような動きに対して,日医は日本医学会や病院団体などに働きかけて,診療ガイドライン評価センター(仮称)設立に向けての準備委員会を発足させた.
 まず,第一の課題は,膨大なデータのなかから,EBMに沿った有用なデータを取捨選択することで,それが適切なガイドライン作成の基本となる.
 第二の課題として,選択された有用なデータあるいは独自の研究データに基づいて,各医学会等が作成したガイドラインを,さらに二次的に評価をする必要がある.客観性があるか否か,わが国の臨床成績や実績に適ったものであるか否か等,これを評価する者の責任はきわめて大きい.日医が主体性を持って,臨床医師,臨床疫学者,統計学者など,適切な人材を登用しなければならない.
 第三の課題は,このようにして評価が済んで,公表されたガイドラインであっても,その目的はあくまで「参考とすべきガイドライン」でなくてはならない.各医療機関や各医師が,そのガイドラインの採用の可否を判断するのであって,仮にガイドラインに沿わない医療機関があっても,それだけで直ちに「誤り」であるとするようなことがあってはならない.その意味で,決して「保険診療の審査基準」などに使用されることのないようにしなければならない.
 したがって,ガイドラインの普及・活用に際しても,医師会が主体性を発揮する必要がある.さらに,医学の進歩に伴う変化等に対応して,常にガイドラインを見直していく姿勢が必要だが,その場合に,ガイドラインを参考として診療に当たる現場の医師の意見を反映させることも重要である.


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