日医ニュース 第941号(平成12年11月20日)

勤務医のひろば

医師の評価について

 本年四月の日本外科学会総会において,「二十一世紀の外科医」と題して鼎談が企画され,私もその一員として参加した.
 その際,栃木県における大学病院および大病院の勤務外科医百数十名を対象として,アンケートを実施したところ,大多数の外科医が,現在の医療界には個人の臨床能力を正当に評価するシステムがなく,真摯に外科臨床に努力し,能力を高めても,将来,報いられる期待信頼度が低く,ある種の閉塞感を有していることが判明した.
 近年,需給関係の変化に伴い,医師供給を行う大学教室に対する病院側の主体性が増しつつあるが,なお教室における研究業績に基づくキャリアパスが病院における地位に影響しており,学会の認定医,専門医などのタイトルが十分機能していない現在,これが閉塞感を強める要因になっていると思われる.
 若い勤務医が日々の臨床の場で,臨床能力を高める学習意欲を持つためには,公正な医師個人に対する評価がなされる必要があり,それには,自己の臨床および研究実績,上司を含めたピア・レビュー,患者側からの評価などの個人評価の基となるキャリアを全国共通の基準に基づき,フォーマルに記録するシステムを構築する必要があると考える.
 これは,現在のIT革命の時代において,その活用により十分可能であろう.これにより,大学教室内の研究業績のみを基盤とする狭い世界におけるキャリアパスにとらわれない医師の労働市場が全国的に広がり,病院長はこの記録を基にして,医師を広い市場から選び,採用,昇降格,待遇などを決定することができる.
 この機構が確立し,普及すれば,現在の大学医局による系列病院化,関連病院化は自ずから崩壊し,医師の労働市場は開放,拡大し,近く行われる卒後臨床研修必修化においても,病院は広く指導医を求めることが可能となり,また,研修医は自由に広く研修病院を選択することができるようになるであろう.

(済生会宇都宮病院名誉院長 梅園 明)


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