日医ニュース 第949号(平成13年3月20日)

勤務医のページ

―21世紀にふさわしい医療―
「病院の統廃合」というシナリオ

 子どものときから二十一世紀にあこがれ,期待していたものだが,今まさに私たちは二十一世紀に存在している.大変な感激であり,しかも,心身ともに健康で二十一世紀を迎えたのだから,なおさら感謝である.
 しかし,自らの健康や生活などについて,ただ単に喜んでばかりいられない.なぜならば,私たちは二十一世紀においても,引き続き,勤務医として,医療を担っていかなければならない使命と責務が与えられているからである.
 いや,一方では,勤務医として,医療を担わさせてもらえるかどうかというような,医療人にとって残酷な医療環境があることも事実である.

激変する医療環境

 医療環境を取り巻く社会変化として,少産少子・高齢化,価値観の多様化,社会資本の不足などを挙げることができる.
 そのもとでの医療環境は,人口構造,疾病構造,医学知識,医療技術,経済的条件,社会生活,健康や病気についての認識,医療提供者,医療提供方法,そして,医療費支払方法などのすべてについて大きく変化している.
 さらにいえば,金融抑制,マンパワー抑制,給付抑制に加えて,自費・差額などの拡大,大病院志向是正による受診抑制など,病院運営にとっては非常に厳しい現状にある.
 このことは,廃院に追い込まれている病院が,ますます増加していることからも,容易に理解できることでもある.
 しかし,勤務医たちの多くは,このような医療環境などの激変にまったく目を向けることはなく,「やりたいことをする」「できることだけをする」といった,従来からの勤務医スタイルに固執してきたことは否めない.このような勤務医たちの態度が,病院運営を困難にさせたといっても過言でない.
 一方,日本経済が冷え込んで久しいわけだが,日本国としてもあらゆる策が講じられてきた.例えば,日本経済再生へのシナリオの一つとして指摘するならば,国民金融公庫と環境衛生金融公庫とが国民生活金融公庫に,日本開発銀行と北海道開発公庫とが日本政策投資銀行に,日本輸出入銀行と海外経済協力基金とが国際協力銀行にというような統合劇を挙げることができる.
 同じように,日本医療再生,あるいは,日本病院医療再生へのシナリオが積極的に書かれ始めているが,その一つが「病院の統廃合」であることには間違いがないところである.

二十一世紀にふさわしい医療

 そこで,「病院の統廃合」についての考えを述べる.
 ただ,ここでは「病院の統廃合」の善し悪しを問うものではなく,二十一世紀にふさわしい医療の創造に向けての問題提起としたい.
 二十一世紀の医療は,市場原理が原則となるであろうが,一般市場での原理原則がそのまま適用されるとは思っていない.
 少なくとも,病診連携,病病連携を基本原則として,特に,病院は自己完結型の医療提供から脱却し,地域完結型に徹底しなければならないと思っている.
 その環境のなかでの,自由競争原理が積極的に適用されなければならないのである.
 そのためにも,病院に与えられた使命などは何であるのかを,職員だけでなく,地域の方々とのコンセンサスを前提とした認識が,まず第一であるといえる.
 例えば,開設者による病院区分を考えてみよう.国立,自治体立,日赤,済生会,厚生連,保険者,法人,会社,個人などとさまざまである.それらの病院には,それぞれの設立主旨や使命などがうたわれている.
 私たち勤務医は,このような設立主旨や使命,あるいは,病院の分類や機能などについて理解していたであろうか.はなはだ疑問であるといわざるを得ない.

日本医療再生へのシナリオ

 さて,国立病院の統廃合劇に端を発した「病院の統廃合」は,その後,現実のものとして進められている.平成九年には,統廃合・民営化などの検討がうたわれた「特殊法人等の整理合理化」なども打ち出され,「病院の統廃合」は本格的な段階に入ったといえる.
 このような社会環境,医療環境からみて,今後,「病院の統廃合」は避けて通れないといえるだろう.そのためには,使命をはじめとして病院分類や機能などについて,より深い理解を示し,病院機能や診療機能が積極的に検討されるなかで,病院機能の再構築,さらにいえば,病院機能の特化などが強力に推し進められなければならないだろう.
「病院の統廃合」は,二十一世紀における「日本医療再生へのシナリオ」といえるだろう.
 これらの統廃合が,ただ単なる合体などではなく,二十一世紀にふさわしい医療が提供できるような医療機関の創生が企図されてこそ,意味深いものになることは明らかである.

現実化した試み

 そのシナリオが,現実のものとして高知ですでに始まっている.既存の高知県立中央病院と高知市立市民病院とが統合され,新しい機能が特化された病院に生まれ変わろうとしているのである.書かれたシナリオのもとに,ステージで演技する両病院の勤務医師たちには,大きな変化がもたらされている.
「病院の統廃合」を真摯に受け止めたうえでの,「患者さんが主人公」の医療の実践に向けてであることはいうまでもない.

(高知県・高知市病院組合理事 瀬戸山元一)


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