日医ニュース 第959号(平成13年8月20日)

視 点

医療監視から立入検査へ


 医療法第二十五条第一項は,都道府県知事,保健所を設置する市の市長又は特別区の区長は,必要があると認めるときは,病院,診療所若しくは助産所の開設者若しくは管理者に対し,必要な報告を命じ,又は当該職員に,病院,診療所若しくは助産所に立ち入り,その有する人員若しくは清潔保持の状況,構造設備若しくは診療録,助産録,帳簿書類その他の物件を検査させることができる─と規定している.この条文に基づいて実施されているのが,いわゆる「医療監視」である.しかし,いくら良く読んでみても,この条文のなかには医療監視という言葉はない.したがって,「医療監視」というのは間違いであって,法に従えば「立入検査」というのが正しい表現である.おそらく,第二十六条に「医療監視員」という言葉があり,その言葉と混同して,「医療監視」という言葉が使用されていたものと推測される.
 国は,この「立入検査」の実施のための参考として「要綱」を定めているが,本年三月から第四次改正医療法が施行されたことを契機に,従来の「医療監視要綱」を廃止して,本年六月,新らたに「医療法第二十五条第一項の規定に基づく立入検査要綱」を定めた.国も「医療監視」という言葉の間違いを認めたもので,今後は,「医療監視」という言葉が使われることはなくなった.
 さらに,単純に「医療監視要綱」という言葉が「立入検査要綱」に変わっただけでなく,内容そのものが改正されたことも重要である.冒頭に述べたごとく,この「立入検査」はあくまで医療法第二十五条第一項の規定に基づいて実施されるものであり,その範囲を越えるものであってはならない.従来の「医療監視要綱」に記載されていたもののなかには,医療法第二十五条第一項の規定に基づいて行われる立入検査の趣旨にそぐわないものが含まれていたため,その部分については,今回の「立入検査要綱」で変更・削除された.変更・削除された主な事項は,(1)診療報酬点数表および基準看護等の欄の削除,(2)感染性廃棄物に関する事項の変更・削除,(3)医療法で設置義務のないICU,CCU等の施設欄の削除─などである.
 今までの,いわゆる「医療監視」よりは,新しい「要綱」に基づく「立入検査」の方が,検査を受ける病院側にとっては,かなり負担が減るものと考えている.しかし,根本的な問題は,医療法という法律が,医療機関に立入検査をすることを規定していることにある.現時点では,法律の条文にある以上,それを遵守せざるを得ないが,「立入検査」すること自体がおかしいのであって,できれば廃止するか,せいぜい「現状調査」程度に改正すべきと考える.


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