日医ニュース 第961号(平成13年9月20日)

視 点

子ども虐待
―医療機関に多い「乳児ゆさぶり症候群」―

 子どもの虐待が激増し,最近十年間で二十倍にも達しようとしている.そのなかで医療機関から直接児童相談所に報告されているものも毎年全体の約五%〜六%あり,平成十一年度で五百七十三例を数える.
 日医では,少子化対策の一環として,安心して子どもを産み育てられる環境づくりに弊害となる子どもの虐待について詳細に分析し原因を追求することで,その早期発見と再発防止のためのマニュアルを作成中である.
 医療機関報告例の特徴は,全国例に比して低年齢層が著しく多いことで,〇〜三歳児が六二%と全国例の約三倍を占めている.また,虐待のなかでは,身体的な虐待が六六%(全国五一・四%)と多く,三分の二を占める.
 身体的虐待のなかでは,打撲・あざが三六・六%,頭部損傷二九・〇%,骨折一三・七%,熱傷八・九%,その他窒息,切傷,腹腔内損傷と続くが,驚くことには,そのなかでも頭部損傷が百三十一例(二九%)もあるということである.
 頭部損傷の内訳では,頭蓋内出血が最も多く七十例(五三・四%),頭部打撲・外傷三十七例(二八・二%),頭蓋骨々折二十例(一五・三%),頭部裂創四例(三・一%)の順で続く.
 頭蓋内出血の大部分は硬膜下血腫で,その年齢分布をみると,〇歳児四十八例(六九%),一〜三歳児で十八例(二六%),三〜十歳児四例(五%)で,〇〜三歳児九五%の大部分を占める.
 〇歳児の硬膜下血腫は,その多くはまだ十分に首が座らず,特に脳と硬膜を結ぶ静膜(橋静膜)の形成が不十分な生後六カ月以前に,頭部を強くゆさぶられる虐待が加えられることにより発生するもので,「乳児ゆさぶり症候群(シェイキングベビー)」と呼ばれている.
 乳児ゆさぶり症候群のなかには,頭部や顔面,四肢等に他の外傷や骨折を伴うものも少なくないが,まったく他の外傷は認められず,意識障害や痙攣,嘔吐,呼吸異常等があるが,家族の説明とはつじつまが合わず,診断に苦しむケースがある.こんな場合には,ちゅうちょすることなく,CTスキャンや眼底検査を実施し,頭蓋内出血,特に,硬膜下血腫の有無の確認がぜひとも必要である.硬膜下血腫は早期に診断して対処しないと,致命的になることがあり,命を救えても,片麻痺や視力障害,知能障害等を残すものも多い.
 〇歳児の虐待の大部分の窓口となっている小児科医には,特に,毎日の診療に際し,常に念頭において,見逃すことなく早期発見に努力していただくことを願うものである.


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