日医ニュース 第973号(平成14年3月20日)

日本医師会市民公開フォーラム
「子どもとたばこ」をテーマに

 日本医師会市民公開フォーラム「子どもとたばこ」―21世紀日本人の健康を考える―が,3月2日,日医会館大講堂で開催された.当日は,5人の女性パネリストによるディスカッションが行われ,さまざまな提言がなされた.

 櫻井秀也常任理事の総合司会で開会.引き続き,二題の基調講演が行われた.

基調講演一「肺がんとたばこ」(坪井栄孝会長)
 たばこと肺がんの因果関係については,世界中で認められているが,特に,若いときから喫煙を始めると,非喫煙者に比べて,肺がんになる確率が三十倍になるというデータがある.
 最近の子どもたちは,「かっこいいから」「なんとなく」といった単純な動機からたばこを吸い始めてしまうことが多く,子どもたちへの禁煙教育は喫緊の課題となっている.子どもたちにたばこを吸わせないためには,特に,ニコチン依存症の怖さを教えること,それも喫煙が増えるとされる高校入学前に教育を始めることが効果的である.
 たばこを吸わない,あるいは早いうちに止めるということで,現在の肺がんの三分の一は防ぐことができるといわれている.日医は,現在世界一である日本人の健康寿命をますます伸ばすためにも,国民の喫煙率の低下を目指して,今後も活動を続けていくので協力をお願いしたい.

基調講演二「心臓病とたばこ」(五島雄一郎日本禁煙推進医師歯科医師連盟会長)
 わが国の喫煙者率は,年々減少しているが,二十から三十代の若年者,特に,女性の喫煙率が著しく増加している.
 三十代の喫煙者の虚血性心疾患発症率は非喫煙者の二倍,また,喫煙,高血圧,高コレステロール血症などの危険因子が重なると,虚血性心疾患の発症率が著しく増加するというデータもある.さらに,喫煙者の急性心臓死の発生率は,三十代で吸わない人の三倍以上,五十代で二倍になるといわれている.
 このほかにも非常に多くの疾病が,たばこと因果関係がある.
 しかし,五年以上禁煙すると,虚血性心疾患の発症は,非喫煙者並みの発症率に近づくというデータもあり,心臓病予防にはできるだけ早期の禁煙が重要と考える.

パネルディスカッション「子どもとたばこ」
 その後,子どもたちをどのようにしてたばこの害から守っていくか,好本惠元NHKアナウンサーの司会により,五人の女性パネリストからさまざまな提言がなされた.
 青井子東京都医師会理事は,(1)胎児への影響(2)受動喫煙の影響(3)増加する子どもの喫煙という三つの問題があることを指摘.子どもの喫煙問題は,社会全体で取り組まなければならない課題であるとした.また,禁煙は専門の医師と一緒に取り組むことが重要であり,医師会にも気軽に相談してほしいと呼びかけた.さらに,たばこの健康被害を知ってもらうためのポスター・ビデオの作成,禁煙テレビCMの放映など,日医の禁煙推進の取り組みを紹介した.
 小野光子日本看護協会常任理事は,日看協でたばこ実態調査を実施したが,看護職の四人に一人が喫煙をしていることが明らかとなったことを報告.患者に接する機会の多い看護職が,いっそう禁煙防止に力を入れていかなければならないとした.
 見城美枝子青森大学社会学部教授は,「愛煙家」という言葉に惑わされ,禁煙家がむしろ肩身の狭い思いをしている日本の風潮を問題視.たばこを吸いたくない人の気持ちを中心とする社会の実現を訴えた.
 望月友美子国立公衆衛生院公衆衛生行政学部主任研究官は,たばこの価格を現行価格から百円値上げすれば,未成年者の消費を減らすことができる一方で,四千億円の税収増が期待できるという自身の研究を報告.これが財政も健康も確保できる唯一の方法であるとした.また,JT(日本たばこ産業)から広告料をもらっている雑誌や公共交通機関などは,喫煙防止活動に非協力であるとマスコミなどの姿勢を非難した.
 渡部通子「女性・こども・命・未来」を守る会事務局長は,(1)日本のたばこに関する知識不足(2)たばこの税収よりもたばこが原因による医療費の増大の方が大きいこと─を問題視し,小学校低学年からの禁煙教育が必要とした.また,条例に罰則を設けて歩きたばこを取り締まろうとする東京都千代田区の試みを例に挙げて,歩きたばこの危険性を指摘した.
 この市民公開フォーラムの模様は,世界禁煙デーである五月三十一日(金)に,NHK教育テレビ「金曜フォーラム」で午後十一時から,また,読売新聞紙上で六月二日に紹介される予定.


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