日医ニュース 第976号(平成14年5月5日)

視点

結核対策の見直し
―小・中学生のBCG廃止へ―


 かつては年間約六十万人もの新規患者を発生し,九万人もの生命を奪い,国民病として恐れられていた結核は,昨今ではすっかり様変わりして,臨床の場から消え去ったかの印象さえ与えてきたが,実際は,いまだに年間四万人もの新規感染者が登録され,約三千人もの死者を出す国内最大の感染症であることに変わりはない.
 しかも,平成九年には罹患率も増加に転じ,平成十一年にあわてて緊急事態宣言を発するとともに,大規模な緊急実態調査を実施し,再興感染症として,従来の結核予防対策を大幅に改正する必要性が叫ばれることとなった.
 確かに昔は,乳幼児や若年青年層をピークに,その尊い生命をうばってきた結核が,最近では,高齢者に集中し,そのうえ,地域格差も著しく,特に大都市の特殊地域に偏在し,その多くは糖尿病等の生活習慣病を合併していることが明らかになってきた.従来はきわめて有効に活用された定期検診の効果が激減し,そこで,有症状者検診並びに接触者検診の徹底が重要視されることになった.
 また,一方,医学の進歩に伴い,結核の早期発見・早期予防に著しく貢献してきたツベルクリン反応検査とBCG接種は,その有効性に関するエビデンスも確立し,これも見直しが求められることとなった.
 すなわち,乳幼児に対するBCG接種は,結核性髄膜炎や,粟粒結核等の重症結核の発病・重症化防止にきわめて有効であることは十分に証明されており,今後も継続実施が必須であること,さらに,乳幼児期のBCG接種が確実に実施されていれば,免疫効果は十五年以上持続し,現在,実施されている小学校一年生と中学校一年生のツベルクリン反応の実施や,その陰性者へのBCG接種が必要なく,例え実施しても,ツベルクリン反応の診断効果,BCG接種の有効性はきわめて低いことが判明してきた.
 厚生科学審議会は,結核部会の報告を受け,乳幼児期のBCG接種の徹底を国に強く要請するとともに,小学校一年生・中学校一年生のBCG接種を廃止することを提言した.
 今後,国は,必要な政省令を改正してその体制を整え,実施することになるわけだが,早くても来春の開始となる.
 しかし,その前提条件として,国が乳幼児期のBCG接種率の向上と,有症状者や接触者の検診を徹底するシステムを構築して,結核感染の予防と早期発見に全力を挙げていかなければならないのはいうまでもない.


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