日医ニュース 第976号(平成14年5月5日)

日医,フジテレビに対し抗議
「不正請求9兆円」と報道


 四月十一日放映のフジテレビ番組「とくダネ!」(月〜金曜日,午前八時から)が,医療費削減の切り札として医師による不正請求をやり玉に挙げた.その内容は,「国民医療費三十兆円のうち九兆円が不正請求であるといわれており,平成十二年の不正請求が一万六千件もあって,しかも,不正請求については罰則がない」というものである.
 日医は,医療制度改革に取り組んでいるこの時期に,意図的に曲解したとも思われる誤報が流されたことを重要視し,早速,抗議を行うことを決定.
 同時に,厚生労働省も同番組に対して,大要次のような文書を送り,注意を喚起した.
 「四月四日に貴局から医療費の不正受給額(一九九五〜二〇〇二年までの七年分の年度別の金額)の資料請求があり,当方からは,『保険医療機関等の指導・監査の実施状況』を提出した.この資料には,指導および監査による返還額(不正請求とはいえない事例における返還額を含む),その件数について明記してあるが,番組においては,その内容と大きく異なる数値等が用いられている.
 また,不正請求については,保険医療機関および保険医の取り消しといった措置が設けられているにもかかわらず,事実に反した発言をしたことは,医療行政に対する国民の正確な理解を妨げることにつながりかねないものと危惧を抱くものである」
 これを踏まえて,日医は,文書をもって,抗議を行うとともに説明を求めた.
 「九兆円といえば,わが国の年間老人医療費の総額に相当する巨額です.それを,伝聞とはいいながらも,噂の根拠を確かめることもなく,単なる推測で,医師によって『不正』あるいは『過剰』に請求されていると報道されたことは看過できません.いうまでもなく,医療の原点は患者さんと医師との信頼関係にありますが,この無責任な報道によって,いたずらに医療不信をかきたてて国民医療を大きく阻害しようとしています.また,大多数の良心的な医師たちを不正請求の犯罪者扱いされたのでは,医師全般の社会的信用を著しく傷つける憂慮すべき事態であると重く受け止めざるを得ません.
 五年前にも同様の『不正請求九兆円』が流布し,本会としては,日刊紙等の媒体を通じて疑惑の払拭に努め,すでに解決済みの問題と考えておりました.
 つきましては,国をあげて医療制度改革に取り組んでいる,今,この時期に,しかも,厚生労働省から事前に資料を入手していたにもかかわらず,何故,それと大きく異なる数値を用いて報道をしたのか,その経緯についての説明も含めて,貴社のご回答をいただきたくご通知いたします」


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