日医ニュース 第985号(平成14年9月20日)

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日本医師会の卒後臨床研修モデル事業

 平成十六年以降に医学部を卒業し,医師免許を取得した医師は,これまで努力目標とされていた卒後臨床研修を修了することが義務付けられ,研修を修了しない者は,医療機関の開設や管理者になる際に制限が加えられることになった.
 研修施設の要件,研修プログラム,到達目標や評価方法,研修医の処遇,さらに,最も重要とされる財源等の具体的な問題については,厚生労働省が設置する,厚生労働省医道審議会の医師分科会医師臨床研修検討部会と,そのもとに作られたワーキンググループで議論されているところである.

現行制度の問題点

 現在の制度は,インターン制度が一九六八年に廃止されて導入されたものであり,努力目標として,二年間の卒後臨床研修を実施するよう求めている.
 この制度は,その後さまざまな変革を経ているものの,大学医局中心であることや専門指向が強まるなど弊害が指摘され,抜本的な改革が求められていた.医療の受け手が求める医師の姿と,医師養成の方向が大きくずれてしまったのである.
 また,大学病院を中心に行われているのが実態であり,実際に研修対象者の約四分の三が大学病院に集中している.徐々にローテーション方式が導入されてきてはいるが,ストレート研修が医局中心の人事システムにとって都合が良いこともあって,特に大学病院では普及してこなかった.
 厚生省は,ローテート研修を普及するべく補助金の支給に工夫を凝らすなど,さまざまな方策を講じてきたが,縦割り行政の弊害で大学内部には口をはさむことができずに,大部分を大学の方針に委ねざるを得なかったのである.
 二〇〇一年四月現在,合計六百十(一般病院四百六十一,精神病院十五,大学病院百三十四)の病院が研修施設として指定されているが,地域分布を詳細に確認すると,全国三百六十三の二次医療圏のうち四八・八%に当たる百七十七に研修施設が一つもないことがわかる.
 一般的な医療が完結する地域として設定された二次医療圏は,本来の初期の臨床研修に適切な環境であるはずであるが,現時点での研修病院の指定基準が相当厳しいことや,経済的なメリットが期待できないことなどいくつかの理由がこのような事態を招いている.

変わりつつある大学側の意識

 先に述べた検討部会が五月に「中間とりまとめ」を公表したが,そのなかで研修の義務化の条件として,医師がアルバイトなどをせずに適切な臨床研修に専念できること,二次医療圏に少なくとも一つの研修体制を設けること─などが盛り込まれた.
 また,「専門医・認定医だけでなく,プライマリケアについての十分な臨床経験のある医師も指導医になれる」というコンセプトが示され,従来の大学の主張とは明らかに異なっている.その意味において,大学側にも臨床研修の位置付けやそのあり方に関する考え方が,少なからず変化していることがうかがわれる.
 実際の委員会の発言においても,安い労働力として捉えることなど,大学の利益のことだけを考えるのではなく,より良い研修や教育を行うことが大切であるという,共通認識はおぼろげながら確立しつつある.

日医の取り組み

 かねてから日医では,大学病院主体の卒後研修のあり方を問題視し,当時の研修義務化の議論を踏まえ,懇談会等を設置して数次にわたる検討を重ねてきた.
 医師法の改正により,十六年から必修化されることを受け,昨年実施した卒後臨床研修の実態調査結果を参考として,今年度は地区医師会が中心となって研修医を引き受ける形態のモデル事業を立案し,実施に移している.これは,一般的な医療を広く経験することに主眼を置き,予防接種や検診といった地域医療への理解を深めることなどを目指した,地域の施設を有機的に活用する研修のあり方を具体化するための実証事業と位置付けられる.
 日医の主張は,「大学や教室というこれまでの権威に頼ることなく,現役医師が次世代の医師を育てて,次代の医療を担わせることが重要であり,そのためには,例え手間がかかっても,人が人を育てるという臨床研修本来のあり方を確立すべきだ」というものである.
 このため,このモデル事業では,地域の第一線で活躍する医師が指導すること,それぞれの研修医の意見や要望をかなえるような,いわばオーダーメイドのカリキュラムを作成すること,また,利害関係のない第三者を後見人として,研修への不安や不満などの相談ができるような体制を作ることなどが骨格となっている.

モデル事業の今後の展開

 モデル事業は,大分県医師会と栃木県医師会が実施しているが,このうち栃木県においては,すでに今年度の卒業生を受け入れた研修を実施している.日医が公募し,これに応募した弘前大学出身の研修医は,栃木県の医師会病院に在籍し,足利赤十字病院,済生会宇都宮病院等での基礎研修に励んでいる.また,この取り組みは,近隣大学の関係者とも連携を密に進められている.
 地域における研修を本当に意義あるものにするためには,多くの医療機関と医師がこの取り組みに参加することが鍵となる.大学や大病院に任せるのではなく,さまざまな立場の医師や医療従事者の総力をあげて,次世代の医療を担う医師を養成しなければならない.
 このため,来年度は,このモデル事業の対象地域を広げることを検討しており,近く今年度のモデル事業の評価と来年度の準備のために,日医内に委員会を設置することになっている.


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