日医ニュース 第987号(平成14年10月20日)

勤務医のページ

勤務医が意欲をもって働くために

 日医は,「患者や国民が安心して医療を受けることができる環境づくり,医療関係者が安心して医療を提供出来る環境づくり」を基本として考え,医療政策提言を含め,医師会活動を行っている.これらの活動を通して,いくつかの課題について述べる.

医の倫理の昂揚
 最近,医療事故が起きた場合の虚偽の説明,カルテの改ざんが新聞紙上を賑わしている.そもそも,医の倫理に関しては,医療については専門家である医師に任せること,そして,医師は親が子を思う気持ちで誠意を持って患者に尽くすことが強調され,医療の専門性を優先してきたことから,このような行動が深刻感を持たずに行われてきたのではないかと考える.
 しかし,医療情報の普及により医療に対する一般の人たちの関心が増大し,国民の医療を受ける権利が主張されるようになり,患者を被護者として取り扱うのではなく,医師と患者の立場は人間としては対等であり,患者の意思を尊重しようという考え方に価値観が見直されるようになった.
 わが国では一九九七年の「医療法」の改正により,インフォームド・コンセントが医療法上の医師の努力義務として明記された.さらに,患者の自己決定権とインフォームド・コンセントの尊重を重視する観点から,日医は平成十二年四月二日に医の倫理綱領を改定し,これに関連し,医療情報の提供,開示を積極的に推進するべく診療情報の提供に関する指針を作成し,平成十二年一月一日から施行している.

医療情報提供
 診療情報の提供推進事業がスタートして二年が経過し,日医は委員会を立ち上げ,指針の見直し作業を行い,平成十四年八月二十七日に報告書を答申した.
 医の倫理綱領に基づき,医師と患者間のより良い信頼関係を築くことを強化するために,患者が死亡した際の遺族に対する説明についての定めを追加し,診療記録等の開示の求めにも応じることにした.この開示は,患者本人に対するものでないことから,本人の生前の意思,名誉等を十分に尊重することが必要であるとした.
 この指針は,十月二十二日の日本医師会臨時代議員会に上程され,承認を得たうえで,平成十五年一月一日から施行されることになる.
 また,日医は全国の医師との間でネットワークを作り,必要な情報が瞬時に取得できるように情報センターを整備するべく検討中である.さらに,このネットワークを利用し,セキュリティーを確保したうえで,病診連携,病病連携のツールとして患者情報を電子化し,リアルタイムに情報交換を行い,共同して患者の治療を行うためのシステムづくりをしている.このためには,医師,医療機関の認証を行う必要があり,今年度中に日医として認証局を立ち上げる予定である.

医療の質管理
 EBMは,「一人ひとりの患者の臨床判断に当たって,現今の最良の証拠を,一貫性を持った明示的かつ妥当性のある用い方をすること」と定義されている.従来,個々の経験と判断力に基づいてなされてきた情報告知,および診断と治療における問題解決の手法に,客観的な証拠に基づいたEBMを導入することは,わが国の実地診療においても重要なことと確信する.
 日医は各専門医学会とともに,わが国のEBMを蓄積し,診療ガイドラインの作成に着手することが急務と考え,日本医療機能評価機構内に,「EBM医療情報サービスセンター」を付設し,EBM医療情報サービス事業をスタートさせた.
 本事業は,医学情報,具体的には診療ガイドラインおよび,その基礎となる医学文献を,科学的な評価をしたうえでデータべースとして整備し,インターネット等を通じて全国の医療従事者や国民に提供することを目的とする.さらに,蓄積される医学文献データべースをもとに,学会等が行う診療ガイドラインの作成・更新を支援することを目的とする.
 本事業は,医療従事者が日常診療を行ううえでの意思決定を支援し,また,患者が自らの医療を選択するうえでの意思決定も支援することにより,個々の患者に適した最善の医療の提供,すなわちEBMの実現を可能にするものである.
 また,この機構の本来の事業は,各々の病院の機能を評価し,認知するものであり,このなかには勤務医が安心して医療を提供できるような機能の評価が含まれている.このなかには,医師の研修と教育を計画的に実施しているかどうかの項目が重要項目として位置づけられている.
 この機構は,日医を中心に,厚生労働省,医療関係諸団体が参加して創設され,現在六年目となり,初期に受審して認定を受けた病院は五年間の有効期間が終わり,二回目の受審をスタートさせている.

混合診療・その他
 勤務医のなかで必ず話題になるのが混合診療である.国は盛んに公民ミックス,公的保険の守備範囲の見直しを唱えている.混合診療の考え方もさまざまであるが,一度混合診療を容認すれば,公的保険の守備範囲は最低の医療のみとなることは目に見えてくる.今は高度な医療でも,公正に患者に対して提供できる公的保険制度である.日医は全力をあげて,この制度を守るべく活動を続けている.


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