日医ニュース 第997号(平成15年3月20日)

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「女性専用外来」設置に見えてくるもの

 最近,「女性専用外来」を設ける病院が増えてきた.婦人科を中心に,内科,外科,精神科,皮膚科,形成外科など,女医が中心となって診察,カウンセリング,治療を行うものである.ある病院では「女性専用外来」を開いて,初めて判明した女性患者の事例を報告している.
 例えば,帝王切開の跡や,子宮筋腫の手術跡が醜いケロイドになってしまった患者.見た目の醜さもさることながら,痛み,痒みもかなりひどいものだった.手術した当事者である産婦人科医に訴えても埒が明かない.「体質だからあきらめろ」といわれ落ち込んでいたが,女性専用外来にかかり,女性形成外科医から適切な治療を受けて悩みは解消された.
 また,ある病院では,外陰部にカリフラワー状になった皮膚がんを抱えていた老齢女性患者に,「どうしてこんなになるまでほっておいたのか」と皮膚科医がいったところ,その女性患者は,「場所が場所だけに診せるのが恥ずかしかった」という.高齢であれ,女性であることには変わりない.羞恥心と恐怖から外来にかかれなかったことは決して責められない.
 家庭の主婦が,最近疲れやすい,だるい,やる気が起こらないといった不定愁訴が続き,夫からは,「怠けているだけ」といわれ,ますます感情の起伏が烈しくなっていたところ,「女性専用外来」で内科,婦人科の診察を受け,更年期障害と分かった.
 こういった事例は少なくないようだ.「女性専用外来」は,女性特有の婦人科疾患から,どこの科に行ってよいか分からない,男性医師には相談しにくいといった内容までを引き受け,のきなみ好評だという.
 このような現象を受けてか,東京都でも二〇〇三年から都立病院に「女性専用外来」を設置することを決めた.女性のめざましい社会進出や高齢化社会を前にして,「やっと,そんな時代が来たか」と思える.そして,このニュースは患者のみならず,女医にとっても朗報といえる.

女性医師の現況は

 厚生労働省によれば,二〇〇二年度の第九十六回医師国家試験合格者七千八百八十一人のうち,女性は二千四百二十四人,約三〇・八%を占めた.合格率でも男性八八・九八%に対して,女性は九三・七%と高く,女性の健闘が目立つ結果となった.
 一方,文部科学省の調べでは,現在,全国の医学部学生の男女比率はほぼ半々になりつつあり,このままのペースで行けば,数年後には女性医師の数が男性医師を上回る可能性もあるという.しかし,果たして,こうやって医師となった彼女らは,将来的にもキャリアの続行が可能なのであろうか,彼女たちの生きる場はあるのだろうかという疑問はぬぐえない.
 医学界は,どうひいき目に見ても保守的,封建的である.女性であること,若いことがメリットになることはほとんどない.「女性は勉強はできるけれど,結局仕事は腰かけだから」といった先入観で,スタートから男性医師とハンディをつけられ,ましてや出産,子育てを経て,第一線に復帰することは至難の技という話は人後に落ちない.きちんとした仕事をするために,どこへ行ったらいいのか分からないのは,女性患者だけではないのだ.

女医であることはハンディなのか?

 日本外科系連合学会で,二〇〇一年,二〇〇二年に女医の生き方を取り上げたシンポジウムが行われた.封建的な医学界のなかで,さらに女性の少ない外科系の世界で女医がどう生きていくかは非常に重要である.
 このなかで,「本人のやる気があれば,決して女性であることはマイナスにならない」「体力の差はもとより,結婚,子育てさえもハンディではない」としている施設が多いが,現実には,大学病院の教授,助教授といった管理職の女性が極めて少ないこと,各学会で定められた認定医制度において女性医師の取得者数が少ないことは否めない.男女雇用機会均等法が施行されて十年以上が経っても,医学界においてはまだまだ男尊女卑がはびこっている.これらはもちろん外科系に限ったことではない.
 米国に目を向けると,先般,女性初の米国医師会長となったナンシー・W・デッキー女史が来日,医師会における女性の役割について講演されたことも記憶に新しい.そのなかでも女史は,米国の女性医師は二〇%以上を占め,医学生においては四〇%を超えているとしながらも,やはり男性優位の医療界であることも確かであると述べている.
 「結婚,出産は女性のキャリア向上の妨げになっていないか」と問うた時,能力がありながら干されていたり,仕事が見つからない女性医師も確かにいる以上,きれいごとではすまされまい.子どもが熱を出したといえば呼ばれてしまうという彼女たちの仕事があてにならないと切り捨ててしまっていいのかという問題に行き当たる.医師会としても,病院における女医の数,数に見合った保育所の確保といった環境の整備は最低限の問題といえよう.

「女性専用外来」の思わぬ効用

 「女性専用外来」を訪れた患者は,異口同音に「女の先生で良かった」と口にする.ここには男性が立ち入れない聖域,女医が必要とされるポジションがある.女医であるからこその役割がある.こういったニーズがますます増えていけば,女性医師の行き場は定着していく.
 ここで最も重要になるのは,まさしく雇用側の理解と協力と,女医自身の仕事を続けたいという意欲であり,これらが今後の女性医師のあり方を決めることになるかも知れない.
(東邦大学医学部附属大橋病院形成外科助教授 岩平佳子)


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