日医ニュース 第1001号(平成15年5月20日)

学校における新しい結核対策
―学校医のために―(その2)
雪下國雄(日医常任理事:学校保健担当)


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 2)学校における今後の具体的対策

 現在における結核予防法の体系は(図―3),結核患者が発生すると,指定医が2週間以内に「患者発生届」を,入院させた場合は「入(退)院届」を7日以内に保健所に届け出ることが決められている.届出を受けた保健所は「結核登録票」を作成し,「結核診査協議会」の答申を受け,患者の就業禁止,命令入所,公費適用が決定される.大切なことは,結核の新規登録患者は保健所が統括していることであり,接触者健診の情報は,保健所情報がなければ始まらないということである.
 学校における今後の具体的対策を列記すると,(1)地域と連携した結核対策の検討(2)児童・生徒等への感染防止(3)早期発見・早期治療(4)患者発生時の対応である.

結核予防法の体型

図-3(結核予防法の体型)

図-3

 (1)地域と連携した結核対策の検討
 地域と連携した結核対策の検討としては,まず,市町村教育委員会等に「対策委員会」を設置し,保健所,結核の専門家,学校医等の参加による診査体制を構築することから始める.その具体的方策を示す技術的,事務的マニュアル等を文部科学省が作成している.
 (2)児童・生徒等への感染防止
 新しい学習指導要領も昨年より施行され,学校は完全5日制となり,特に,「総合学習」の創設により児童生徒等の老人施設等の福祉施設等への教育活動も活発になることが予測される.地域保健との連携において十分感染防止対策を講じておかなければならない.
 また,就学時のBCG接種状況を十分に把握し,学内への持ち込みには配慮が必要である.
 教職員の結核の早期発見・早期治療の必要性についてはすでに述べたが,健康診断を徹底することはもとより,事後措置の徹底を図ることが最も大切である.集団発生源のなかから1名でもその名が消えるよう強く要望するものである
 (3)早期発見・早期治療
 一律実施のツベルクリン反応検査を廃止することが決まると,早期発見には,患者発生の周辺者に対する厳重な接種者健診と,「咳がいつまでも続く」とか「微熱が続く」等の有所見者をいち早く早期健診すること以外に方法はない.
 そのためには,学校健診のなかでは,家族の情報は問診という形で集めるとともに,新規結核登録患者の情報は,保健所情報として,学校健診の情報は学校医情報として,さらには教職員健診の情報を学校(長)情報として各々持ち寄って,対策委員会に提出してもらうことから始まる.
 有所見者の早期発見については,学校健診の場はもとより,予防接種時または一般受診時等にも,常にその早期発見に努めなければならない.また,学校保健活動,特に,学校保健委員会や健康相談,健康講話等でも,結核の問題を積極的に取り上げ,家族や地域関係者の啓発に努めることも大切な仕事である.
 (4)患者発生時の対応
 患者が発生したら,まず,その患者(児童・生徒,教職員)の事後措置を徹底すると同時に,接触者健診に重点をおいて,その集団発生の防止に努めることが大切である.
 接触者健診の範囲は,地域保健所の指導を受け,適切な範囲を検索するとともに,広範に及ぶおそれのある時は,臨時健康診断として全校に実施されることにもなろう.

 3)学校結核対策委員会の設置と問診表

 学校健診は,学校保健法第6条に義務付けられ,その健診内容については施行規則第4条に示されている.そのなかに結核の有無(結核健診)の項がある.
 したがって,学校における結核健診は,「学校医の職務執行の準則」(施行規則第23条)にもあるように学校医に与えられた任務の一つでもある.
 今後も具体的対策への提言を受け,まず,学校健診のなかで(図―4),学校医は「長期間(2週間以上)咳の続くもの」,「発熱が続き著しく衰弱しているもの」,「栄養状態が著しく悪いもの」等のなかから,精密検査をしておいた方が良いだろうと判断する児童生徒についての情報を学校医情報として,家族は6項目に限定した問診表に○を付けて家族情報として,教職員(図―5)の健康診断より,結核に対する事後指導のあるものを学校管理者としての校長より学校教職員情報として,また,新規結核登録患者を把握している保健所長より保健所情報として,市町村教育委員会の設置する学校結核対策委員会に各々情報提供していただきたいのである.
 学校結核対策委員会(仮称)は,保健所長,学校医,専門医,学校長,教育委員会等で構成され,提供された情報を検討し,精査の必要なものと必要ないものとを選別し,必要ないものについては,差し戻し,他の情報,例えば保健所情報より検討の必要のあるものについては追加し,次回の委員会で選別することとなる.
 精査の必要なものについては,あらかじめ指定された専門医療機関で実施,対策委員会に結果報告をもらい,委員会内で事後指導を決定し,各個人に報告する.
 ここまでのすべては,学校保健法のなかで実施され,公費が支払われる.
 治療が開始される場合は,結核予防法の適用を受け,結核予防法から支払われることになる.

学校結核対策委員会

図-4(学校結核対策委員会)

図-4

問診表(家族よりの情報)

図-5(問診表(家族よりの情報))

図-5

(III)実施にあたって

 次回結核予防法の改正は,平成16年度になる予定である.
 感染症法統合の主旨から,当初検討されたが,患者の新規発生がまだ約4万人もあり,死亡者が3千人もあるのでは,新感染症分類の全部(1類より4類まで)を合わせても死亡者が3千人にも及ばない感染症(新)法に合併させるには種々の困難があるということで,今回はまだ独自に結核予防法の改正でいくこととした.したがって,乳幼児期のツ反・BCG体制の改正については,平成16年度にずれ込むことは前述した.
 しかし,小学1年,中学1年のツ反・BCG体制の完全廃止については,政省令による改正で済み,結核予防法の改正は必要ない.したがって,平成14年度8月を限度に頻回会議が開催され,あわただしく決定された.各関係諸機関の連携も不十分で種々の情報が錯綜し,学校医の先生方には大変混乱を引き起こし,ご迷惑をおかけしたことに対し,深くお詫びする次第である.
 いずれにせよ,新しい施策であり,開始しても種々の問題が発生すると予測される.適時,改善を重ねるとともに,大きな問題については,次の改正に向け,意見を集積していくつもりなので,皆さんの忌憚のないご意見を賜わりたい.


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