日医ニュース 第1001号(平成15年5月20日)

一般医療機関における重症急性呼吸器症候群(SARS)への対処指針
日医感染症危機管理対策室(平成15年5月9日)

 本対処指針は,感染症指定医療機関以外の一般医療機関に重症急性呼吸器症候群(SARS)患者(「疑い例」,「可能性例」を含む)が来院した場合,およびSARSを疑われずに入院した患者が入院後にSARSを疑われる状態になった場合の対処の方針を示したものである.

I 外来での対処指針

1.SARSについての情報の掲示
 一般医療機関においても,外来入口にSARSの症状,伝播確認地域を示し,該当する外来患者は事前に連絡のうえ,マスクを着用して受診することを掲示する.

例 示
本誌11面に折り込み
本誌11面に折り込み

2.患者の別室待機等
 疑いのある患者は一般待合室でなく,個室などに誘導して待機させる,あるいは時間帯をずらす等,一般患者との接触を避ける.患者にはマスクを着用させる.

3.診療上の注意点
 前もってSARSの疑いのある患者を診察する医師はN95マスク(ない場合は外科用マスク)を着用して診察する.前もって疑われていない患者を診察する医師は,急な高熱,呼吸器症状を患者が訴えた場合,過去10日間の旅行歴,旅行中,呼吸器症状が強い患者との接触の有無を詳細に問診する.

4.施行すべき検査
 診察の結果,疑い例であると考えられた場合にはすみやかに胸部レントゲン撮影,SARSコロナウイルス検査(PCR検査,ウイルス分離,抗体検査),血球検査,生化学検査,インフルエンザ等の可能な迅速診断法を行う.
 以上の対応がとれない医療機関では,直ちに保健所に連絡する.

5.入院の適応決定
 胸部レントゲン写真で陰影が認められなかった場合,疑い例と診断する.疑い例には,マスク(外科用または一般用)着用,手洗いの励行等の個人衛生的な生活に努め,人ごみや公共交通機関の使用をできるだけ避け,回復するまで自宅にいるよう指導する.また,呼吸器症状が悪化すれば,直ちに医療機関に連絡したうえで受診するよう指導して,帰宅させる.
 胸部レントゲン写真で両側性,または片側性の浸潤影を認めた場合,可能性例として入院を決定する.

6.保健所への連絡
 疑い例,可能性例を診断した医師は,すみやかに管轄の保健所に連絡する.可能性例については搬送先病院の指示を受ける.

7.患者の搬送
 SARS患者(可能性例を含む)の搬送が必要になった場合,気道分泌物が飛散しないよう,患者には可能であればN95マスク(ない場合は外科用マスク),呼吸困難が強ければ外科用マスクを着用させる.患者の搬送に従事する職員は,N95マスク,耐水性ガウン,頭部カバー,ゴーグル,顔面カバー等を使用する.

8.職員,接触者の健康管理
 SARS患者の診察・処置を行った職員は,接触後10日間,出勤停止として自宅待機させる.待合室で患者の近傍にいた他の外来患者にも10日間は外出を控えるように指導する.また,職員,接触者には10日間毎日体温を測定し,急に発熱し,呼吸器症状が出た場合,電話で連絡したうえで医療機関を受診するよう指導する.

II 入院患者で疑いのある患者が出た場合の対処指針

1.保健所への連絡
 入院後に旅行歴,接触歴からSARSが疑われた場合に胸部レントゲン写真が撮影されていなかったら,すみやかに撮影して疑い例,可能性例の鑑別を行う.疑い例,可能性例とも保健所に連絡する.可能性例については搬送先病院の指示を受ける.

2.疑い例の管理
 疑い例も可能であれば個室管理として,入院の原因となった疾患の治療を行う.病室に入室する職員はマスク,ガウンを着用し,手洗いを励行する.発熱の原因が不明で,発熱が持続する場合,1日おきに胸部レントゲンを撮影し,陰影が認められた場合,可能性例として取り扱う.同時に,SARSコロナウイルス検査を実施する.解熱し,異常が認められた検査値が正常化して48時間経過した場合,退院を考慮する.退院後10日間は毎日体温を測定し,体調に変化がみられた場合,電話で連絡したうえで医療機関を受診するよう指導する.

3.SARS患者(可能性例を含む)の搬送
 患者の搬送が必要になった場合,気道分泌物が飛散しないよう,患者には可能であればN95マスク(ない場合は外科用マスク),呼吸困難が強ければ外科用マスクを着用させる.患者の搬送に従事する職員は,N95マスク,耐水性ガウン,頭部カバー,ゴーグル,顔面カバー等を使用する.

4.職員,同室入院患者の健康管理
 SARS患者の診察・処置を行った職員は,接触後10日間,出勤停止として,自宅待機させる.また,患者の同室入院患者には,最後の接触から10日間は入院を延期して経過観察したほうが望ましい旨勧める.退院延期を拒否した同室入院患者には,外出を控えるように指導し,10日間毎日体温を測定し,急に発熱し,呼吸器症状が出た場合,電話で連絡したうえで医療機関を受診するよう指導して退院させる.

5.接触者調査
 入院患者にSARS患者(可能性例を含む)が出た場合,職員,面会者など接触者数が多く,曝露時間も長いと考えられる.この場合,広範な追跡調査が必要となるため,厚生労働省から積極的疫学調査チームの派遣が検討される.


日医ニュース目次へ