日医ニュース
日医ニュース目次 第1002号(平成15年6月5日)

平成15年度感染症(SARS)危機管理対策協議会
新型肺炎への冷静な対応を確認

 重症急性呼吸器症候群(SARS)が,世界的な猛威を振るうなか,日本で発症した場合,医師会ならびに医療機関がどのように対応すればよいのか等を検討することを目的として,感染症(SARS)危機管理対策協議会が,5月14日,日医会館小講堂で開催された.出席者の関心も高く,多くの質問が寄せられ,活発な協議会となった.

大勢のマスコミに囲まれながら協議を進める執行部
大勢のマスコミに囲まれながら協議を進める執行部

 冒頭,世界医師会中間理事会のため出張中の坪井栄孝会長に代わってあいさつした糸氏英吉副会長は,「わが国のSARS対策のなかで,医師会あるいは医療機関が果たすべき役割について,本日は活発な議論をしていただきたい.その成果を各地域での円滑なSARS対策の推進に役立ててほしい」と述べた.

SARSの現状

 引き続き,岡部信彦国立感染症研究所感染症情報センター長による講演「重症急性呼吸器症候群(SARS)について(経緯と現状,対応)」が行われた.概要は,次のとおりである.
 今回のSARSは,今年になって突然現れたわけではなく,昨年の十一月に中国の広東省ですでにその兆候が見られ,それが何らかの理由で,世界各地に広がっていったと考えられる.
 SARSの特徴としては,(1)患者の年齢層が二十五歳から七十歳までの健常成人に多く,十五歳未満の小児の症例が少ない(2)臨床症状がインフルエンザと似ている(3)典型例では,発疹,急性中枢神経合併症,消化器症状が見られない(4)致死率は現在のWHOの症例定義に当てはまるSARS患者では三〜四%であるが,カナダのトロントでは約三〇%と高い数字を出している.また,高齢者になるほど高くなる―などが挙げられる.
 感染経路としては,接触感染,飛沫感染が中心と考えられるが,空気感染,環境からの感染も否定できない.感染力には,個人差,病期によって差があるので,注意する必要がある.予防策としては,N95マスク,外科用マスクの着用がかなりの予防効果があるとされており,診療に当たる際には必ず着用してほしい.
 現在,日本では,幸いなことに患者は一人も報告されていないが,今日のようなグローバル化の時代においては,感染症の侵入を完全に防ぐことはできない.しかし,ベトナム等の例からも分かるとおり,その拡がりを最小限に防ぐことは可能であり,協力をお願いしたい.

SARSについて講演する岡部氏
SARSについて講演する岡部氏

日医の対応

 つづいて,櫻井秀也常任理事から,「一般医療機関における重症急性呼吸器症候群(SARS)への対策」について報告が行われた.
 そのなかで,櫻井常任理事は,本年三月十三日から五月九日に出された「重症急性呼吸器症候群(SARS)に対する消毒法」(下記参照)など,SARS関連通知の説明を行ったほか,日医の取り組みとして,日医作成の「SARS対策のQ&A」「一般医療機関における重症急性呼吸器症候群(SARS)への対処指針」「日医ニュース折込ポスター」などについて解説した.
 また,最後に,情報を得ながら,医療関係者がパニックを起こすことなく冷静に対応していくというのが,日医のSARSに対する姿勢であるとして,さらなる協力を求めた.

主なQ&A

 その後,出席者との間で活発な質疑応答が行われ,石川高明副会長の総括で終了した.以下は主な質問ならびにその回答である.

Q:可能性例で入院した際の退院の目安はどうか.
A:WHOでは,四十八時間発熱がないことを目安としているが,総合的に判断すべき.

Q:SARS患者を診療したことにより,診療所を休診せざるを得なくなった場合,補償または保険というのは考えられるか.
A:感染症法に基づく強制入院でも,患者さんに経済的補償はしていないため,厚生労働省としては,今回も補償することは考えていない.
 損害保険会社には,店舗休業保険に感染症による特約が設けられている.会社によってその対応はさまざまであるので,損保会社に問い合わせてほしい.

Q:治療方針の現状を教えてほしい.
A:基本的には対処療法しかない.リバビリンとステロイドの併用を早期に行ったほうが,重症化を防ぐことができるといわれてはいるが,今までのところ,リバビリンを積極的に投与しようということにはなっていない.

Q:疑い例,可能性例のある患者さんは,特定の医療機関で診ることにしてはどうか.
A:指定医療機関で診断してもらった方が,蔓延を防ぐという意味では良いのかも知れないが,一般医療機関に来院した患者さんの診療を拒むことは難しい.現に岩手県医師会ではかかりつけ医が初期の対応を行っている.この問題は,地域の実情に応じて保健所の対応を中心に,都道府県医師会レベルで都道府県行政とよく話し合ってもらい,その対応を決めてもらいたい.
 厚生労働省の専門委員会でも検討をしているところであるが,早急に対応を決めたい.

Q:SARSの疑いのある患者さんの診療を断った場合,法的に罰せられるのか.
A:単に診療を拒絶したということであれば,法的に問題があると思われる.十分に患者さんの話を聞き,他の病院を紹介することは可能であるが,その場合も患者さんに納得してもらうことが大切なのではないか.紹介先の医療機関についてのシステムが必要である.

重症急性呼吸器症候群(SARS)に対する消毒法
  1. 重症急性呼吸器症候群(SARS)の病原体と推定されている新型コロナウイルスは,重篤な症状を引き起こすことや,本ウイルスに関する詳細については未だ明らかにされていないことなどから,本ウイルスに対しては厳重な消毒を行っておく必要があります.
  2. コロナウイルスは,エンベロープと呼ばれる膜を有するウイルスで,過酢酸(アセサイドRなど),グルタラール(ステリスコープR,サイデックスRなど),次亜塩素酸ナトリウム(ジアノックR,ピューラックスR,ミルトンRなど),アルコール(消毒用エタノール,70v/v%イソプロパノール),およびポビドンヨード(イソジンR,ネグミンRなど)などが有効です.
  3. 手指消毒には,速乾性手指消毒薬(ヒビスコールR,ヒビソフトRなど)を用います.
  4. 患者が退室した病室の消毒は,オーバーテーブル,ベッド柵,椅子,机およびドアノブなどに対するアルコール清拭で対応してください.アルコールの代わりに,0.1%(1,000ppm)次亜塩素酸ナトリウム(ジアノックR,ピューラックスR,ミルトンRなど)を用いても差し支えありません.なお,天井,壁,および床などの消毒は,喀痰などの付着がない限り不要です.
  5. ベッドマット,毛布,およびシーツなどのリネン類の消毒は,80℃・10分間の熱水洗濯が適しています.ただし,80℃・10分間などの熱水洗濯が行える洗濯機がない場合には,0.1%(1,000ppm)次亜塩素酸ナトリウム(ジアノックR,ピューラックスR,ミルトンRなど)への30分間浸漬で対応してください.
  6. 患者に関して発生した感染性廃棄物を扱う際には,注射針などによる外傷に注意し,バイオハザードと明記された漏出しない強靱な袋あるいはゴミ箱に入れ,安全に廃棄してください.

 なお,以上の方法で消毒する場合は,適切な感染予防装備と手順に従って行ってください.

厚生労働省医薬局安全対策課長通知
平成15年5月9日

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