日医ニュース
日医ニュース目次 第1003号(平成15年6月20日)

視点

健康増進法施行について

 昨年七月に成立した健康増進法が,本年五月一日から施行された.健康増進法の目的は,「国民の健康の増進の総合的な推進に関し基本的な事項を定めるとともに,国民の健康の増進を図るための措置を講じ,国民保健の向上を図る」としてある.
 この目的に異論はないものの,健康増進法に関しての問題点を指摘してみたい.
 第一の問題点は,国民の健康を総合的に推進するといいながら,従前から存在する,母子保健法,学校保健法,労働安全衛生法(産業保健),老人保健法などはそのままであるために,それらの各法に盛り込まれた内容との整合性が図られていないことである.
 この点に関しては,日医の提唱している「生涯保健事業」の推進,その考えに基づいて提案された「健康基本法」制定の必要性の考え方が,まったく取り入れられていないことが問題である.
 第二の問題点は,健康増進法を,「健康日本21」の法的裏付けと位置づけていることである.本来,「健康日本21」は,従来の保健事業のように法律に準拠して行われるものではなく,国民一人ひとりや地域,団体などが自発的に参加し,目標を定めてその達成を目指す「国民の健康づくり」という点に新しい地平があったはずである.しかし,後追いの形で「健康日本21」を健康増進法に準拠する事業と定め,結局のところ,「国民の健康づくり」ではなくて,「国(お上)の健康づくり」にしてしまったことに問題がある.
 その他にも細かい問題点はあるが,健康増進法の成立を日医が容認した大きな理由は,以下の点を評価したためである.
 健康増進法第五章第二十五条には,「学校,官公庁施設等多数の者が利用する施設を管理する者は,受動喫煙を防止するために必要な措置を講ずるよう努める」とあり,努力義務とはいいながら「受動喫煙の防止」が法的に定められた.日本では,たばこに関しては,たばこの増産を進める「たばこ事業法」は存在するが,喫煙を防止する,禁煙を推進するなどのたばこを抑制する法律は一切存在しなかった.極めて不備ながら,健康増進法は,日本におけるたばこを抑制する法律の第一歩となったのである.
 厚労省は,受動喫煙の防止が必要な対象として,学校,体育館,病院,劇場,観覧場,集会場,展示場,百貨店,事務所,官公庁施設,飲食店などの他に,バス,タクシー,航空機,駅,屋外競技場,商店,旅館,金融機関,美術館なども含まれると明示した.そして,分煙する場合の効果的な対策を示し,さらに,「全面禁煙は極めて有効」としている.
 それにしても,厚労省は,外からも見える一階に喫煙所を設け,「厚労省は全面禁煙はしません」と宣伝しているのはどういう神経なのだろう.

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