日医ニュース
日医ニュース目次 第1003号(平成15年6月20日)

勤務医のページ

東京都医師会勤務医 委員会答申について

 質問:当直をして一睡もしないお医者さんでも,翌日は手術を担当する場合がある,と聞いたのですが本当ですか?
 「勤務医のぺージ」を読んでいる読者であれば,この質問に答えることは容易なことと思う.しかし,現実には,このような質問をする患者さんがいるとは思えない.なぜなら,世間では,「当直とは戸締まりをして眠る業務」が常識であり,「例え徹夜しても,当直翌日も通常勤務」という医師の常識が,国民に伝えられることはほとんどなかったからである.
 東京都医師会勤務医委員会(以下当委員会と略記)は,東京都医師会長からの「『勤務医の現況―二〇〇三―』について考察せよ」との諮問を承け,本年三月に答申し,「勤務医の待遇や医療環境を改善するために,東京都医師会として,勤務医あるいは医療の現況を広く都民・国民に伝えていただきたい」と提言した.

アンケート内容

 まず,基本資料としての「勤務医の現況」を得るため,アンケート調査を行った.あらかじめご協力いただけるとご返事いただいた都内の医療機関三百七十三施設宛に総計一万四千七百五十部のアンケートを配布した.
 調査項目は,主たる勤務施設における平均出勤日数,平均帰宅時刻,当直時の平均睡眠時間など四十八項目の多岐にわたるものであり,最後に,勤務医の労働環境をはじめとして,医療政策,医師会に対するご意見などを書いていただくための自由意見欄を設けた.
 三千六百九十八名より回答を得て,回収率は二五・一%,このうち八百二十五名(二二・三%)の回答者から自由意見が寄せられた.回答者のうち医師会会員は千八百三十八名で,東京都医師会に所属する勤務医の約四分の一に当たる.
 提言の作成に当たっては,代表的自由意見二十六件を原文に沿って収載し,平成十四年二月に答申された日医勤務医委員会答申と比較検討したうえ,当委員会の意見も述べさせていただいた.ここに答申の抜粋を紹介する.

アンケート集計結果(全四十八項目)の抜粋

 一,主たる勤務先での勤務が,労働基準法の求める週五日以下との回答は三三・七%に止まり,業務の終了時刻が平均して午後九時までという回答が三七・〇%にのぼった.
 二,当直時の平均睡眠時間が四時間に満たない回答者が五一・四%であった反面,当直翌日に何らかの形で休養を取ることができるのは一・六%に過ぎなかった.医療上のミスを起こすことも含め,当直翌日の勤務に支障があると回答した者は三七・五%にのぼった.

夜勤翌日の診療業務への影響
夜勤翌日の診療業務への影響

自由意見(全二十六件)の抜粋

 WHOが二〇〇〇年に百九十一カ国の保健システムを比較して日本がトップであったという話を聞いたことがあります.これには医療従事者の献身的な(自己犠牲的といえる)努力が不可欠です.しかし,このことは不思議なくらい,一般の人は知りません.日本の医療は国内では評価が低いのです.国際的には日本の医療の評価が高いことをもっと積極的にアピールすべきです.また,日本の医療は非常に低いコストでやっていることも一般の人にアピールすべきです.患者さんの不満の相当な部分は,日本の医療システムを理解していないところから発生していると思われます.医療を提供する側からの広報がまったく不足していると考えます.(参照:World Health Report 2002, WHO; http://www.who.int/whr/en/

当委員会意見(全六項目)の抜粋

 一,日医の答申においては,「現在勤務医がおかれている労働環境の見直しと改善が必須のものである」とは述べているが,現実の労働環境についての考察は行われていない.「労働環境の見直しと改善」を医師会や厚生労働省だけで行うことがすでに不可能であることを認識されておられないのではなかろうか.「現在勤務医がおかれている労働環境」を医師会内のみならず,医療サービスの受給者である一般社会に根気よく伝えない限り,「労働環境の見直しと改善」に必要な予算は出ない.
 二,日医総研もそろそろ,日本国民への説明に要する費用と効果とのシミュレーションを開始する時期ではないのか.
 以上はあくまでも抜粋に過ぎず,できれば機会を設けられて,全文をご通読いただきたい.
 (東京都医師会勤務医委員会委員長 石川幹夫)

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