日医ニュース
日医ニュース目次 第1015号(平成15年12月20日)

勤務医のページ

座談会4
─勤務医と医師会活動─

 勤務医座談会「勤務医と医師会活動」の最終回となる今回は,「自浄作用・医の倫理」「医療安全」をテーマとした議論の模様を紹介する.なお,今回の座談会の意見を踏まえて作成される日医勤務医委員会答申については,後日,本紙でその内容を掲載する予定となっている.

自浄作用の活性化に向けて

 池田 次に自浄作用,医の倫理についてですが,日医も自浄作用の活性化に取り組んでいますが,何かお考えがありましたらご意見をいただきたいと思います.
 リー 自浄作用については,医師会が精神的な人間性といった面も含めて,指針を分かりやすく示していくことが必要だと思います.
 内山 自浄作用というのは,何も除名とかそういうことだけでなくて,ボトムアップも含まれてなくてはいけないと思います.また,この問題と密接に関係するのは,医師会の団体としての性格で,弁護士会のような強制加入団体となり,懲戒権を持った国民から信頼される組織になるべきだろうと思います.
 望月 倫理の問題は除いて,技術的な問題の面からいうと,各学会の専門医制度は整合性がなく,専門医がどのくらいの能力があるのかを計る物差しはまったくないんですね.医療技術に関してきちっとした専門医制度を敷くのであれば,各学会がばらばらにやるのではなくて,やはり,国の政策として整合性を持った専門医制度を導入して,医師がどういう実績があるかということをオープンにしなければいけないと思います.
 大谷 鳥取県では,県内の医療機関の特性をどうやって開示するかについて動き出しています.それと,どういう人間を医学部に迎えるか.社会体験,ボランティア体験等々,人物評価をどうやってやっていくかが大事だと思います.
 昨年度,医療局長になって,初めて幹部に対する人権教育的なことをやりました.これをどのように生涯教育の一環として中身のある形で仕掛けていこうかと考えています.
 白水 自浄作用にしろ医の倫理にしろ,ある程度,医師会で情報開示のレベルをコントロールして開示することが必要だと思います.
 リー 日本では,病院機能評価がなかなか浸透していません.評価がしっかりしていれば,当然,自浄作用につながるものであり,患者さんのためにも病院の努力に対する第三者からの評価が非常に重要だと思います.日本全体に通じるような,評価のスタンダードを日医で浸透させていくことが必要だと思います.
 白水 病院機能評価のいちばんの問題は,評価を受けようというところは,もともと上のほうのレベルで,自信があるから受けるわけです.それを受けて,例えばAを取った場合には,少し診療点数に加算されるとか,あるいは,逆に,それを受けていないとマイナスされるとか,何らかのメリットがついてこないと,面倒だから受けないということになると思います.要するに,形だけであって,実質のメリットがついてきていないというのが,こういう制度が全体に定着しない原因ではないかと思います.
 池田 評価を受けるということで,いい病院になろうという意識が芽生えているようですし,受けるという作業のなかで,多くの職種の連帯感が醸成されるということはあるようですが,何かもっと別のインセンティブも必要ですかね.

医療安全は組織の問題

 池田 最後に,医療安全の話題に入ります.
 大谷 いちばん困っているのは,いわゆる信頼関係の崩れなんですね.忙し過ぎて丁寧な対応ができていないのか,相変わらず父権制度の関係性を持っているからなのか,そのあたりをシステム化することが必要だと思います.
 内山 病院ではリスクマネージメント部会長をしており,今,相当なエネルギーをこの医療安全に費やしています.そこで感じたことは,医療事故というのは,やはり個人の不注意ということもありますが,多くの場合は医療の一連の流れのなか,システムのなかで起きてくると思います.そのシステムを全体としてとらえようとするのがどこの病院でも少ないと思うのです.
 患者さんが外来に来て,診療申し込みを書いて,診察を受けて,あと伝票の流れとか物流管理も含めて,そのどこかのシステムエラーで起きることが多いのですが,病院の管理者は,もっと医療のシステムということを中心に,医療安全に取り組む必要があると思っています.
 望月 うちの病院では,副院長がリスクマネージャーの委員長をやっていて,週一回必ずリスクマネジメント委員会を開いています.そこで,インシデントレポートを全部集約して,個人の問題ではなく組織の問題として,どういう流れでそうなったかというところを分析して,医局の壁に壁新聞形式で必ず張り出すようにしています.組織として対応することで,だいぶ整理されてきたかなと思います.
 医師会主催の倫理的な研修会については,関心のある方は出てきますが,無関心な医師や医療スタッフをいかに引き上げていくかということが,非常に難しいと思います.お互い勉強していくという姿勢を取っています.
 白水 保険医の資格は一生続きますが,専門医制のように,保険医の資格を更新制にして,その間に,医師会の倫理の研修会などに出席して,ある程度の点数がないと保険医の資格が一時的に停止するなどの,何かペナルティでもないと,出てこないのではないかと思います.
 リー 私がいくつか経験した事故のなかで,問題だと思ったのは,フィードバックが十分にできていないということです.病院のなかの当事者だけで問題がうやむやにされて,責任者あるいは院長に伝わっていないケースを見ております.
 例えば,薬局で二人の薬剤師にチェックされているにもかかわらず,間違った薬剤が出されたケースを聞いたことがありますが,解決策の検討は聞いたことがありません.小さなことも,院内の責任者の下にすべての情報が集中し,フィードバックを確実にしないと,いくら言葉でいっても同じことが繰り返されると思います.一人ひとりの意識の向上も必要です.
 池田 今,大部分の病院は,院内のヒヤリハットやインシデントレポートとかいう形で,次の事故が起こらないようにと,フィードバックができるシステムを取っていると思います.
 白水 ただ,いちばん問題なのは,ほとんど看護師からの報告で,医師からの報告というのは極めて少ない.実際にはあるはずなんですが,自分のなかで消化してしまっているというか….
 池田 医師からの報告が少ないことは問題ですが,ただ,看護師さんの方が多く,しかも現場での仕事が多いので,そうなりがちだと思いますが.
 白水 うちは小さな病院ですから,やれる部分がかなりあります.例えば,検査データでも,だいたい一年分がコンピューターで並んで出てきますので,変化が起きたときに,パッと見てわかりやすい.それと,毎月一回データが全部コンピューターで打ち出されてきて,それを医師が見たという判を押すまでは,カルテのなかに目立つように挟んであるんです.それで,チェックしたというサインをしない限り,それを除けてもらえないというシステムです.
 大谷 確認技術自体も,われわれはきちんとした教育を受けていませんが,動作確認などのいろいろな技術をわれわれが産業界から学ぶということが,医療安全で大事だと思います.
 リー 医師の処置を看護師があらさがしではなく,まわりからチームとして固めるという意味でのチェック機構がしっかりしていないといけないと思います.医師はオールマイティーではないので,チェック機構により確認していくという意識が必要かと思います.
 大谷 それも恐らく医療安全,労働安全文化ということなんでしょうけどね.やはり,それを目指したいですね.
 池田 まだまだお話ししたいことはたくさんあると思いますが,このあたりで終わりたいと思います.ありがとうございました.

(終)

このページのトップへ

日本医師会ホームページ http://www.med.or.jp/
Copyright (C) Japan Medical Association. All rights reserved.