 |
第1019号(平成16年2月20日) |
―総合規制改革会議第3次答申の問題点を探る―
医療への市場原理導入を画策
櫻井秀也常任理事に聞く

昨年末12月22日に,総合規制改革会議第3次答申が出され,26日に閣議決定された.答申の内容は,1次,2次答申の延長線上にあり,依然として,医療へ市場原理を導入して「医療での金儲け」を画策する一部の経済人の意向が色濃く反映されたものとなっている.総合規制改革会議第3次答申の概要と,その問題点について櫻井秀也常任理事に聞いた.
総合規制改革会議とは何か
総合規制改革会議は,平成十三年四月一日,内閣府設置法に基づく政令で,内閣府に設置された.設置期限は三年間で,平成十六年三月三十一日までである.
その役割は,「経済に関する基本的かつ重要な政策に関する施策を推進する観点から,内閣総理大臣の諮問に応じ,経済社会の構造改革を進める上で必要な規制の在り方の改革に関する基本的事項を総合的に調査審議すること」とされている.
議長は宮内義彦(オリックス株式会社),副議長は鈴木良男(株式会社旭リサーチセンター),委員は民間有識者と称する人たちで構成されている.
平成十三年十二月に規制改革の推進に関する第一次答申,平成十四年十二月に同第二次答申,平成十四年七月に「規制改革特区に関する中間とりまとめ」を公表し,現在「構造改革特区」として実施されている.平成十五年二月に「規制改革推進のためのアクションプラン」を提起し,重点検討事項として十二項目を挙げた.平成十五年二月に追加重点検討事項として五項目を追加し,十七の重点検討項目とした(表1).
「医療」に関連が深いものとしては,株式会社の医療機関経営の解禁,いわゆる「混合診療」の解禁,労働者派遣業務の医療分野への拡大,医薬品の一般小売店での販売などが挙げられる.そして,今回,平成十五年十二月二十二日に第三次答申が出されたというのが,これまでの経緯である.
(表1)
重点検討事項
(1)医療
- 株式会社等による医療機関経営の解禁
- いわゆる「混合診療」の解禁(保険診療と保険外診療の併用)
- 労働者派遣業務の医療分野(医師・看護師等)への対象拡大
- 医薬品の一般小売店における販売
(2)福祉・保育等
- 幼稚園・保育所の一元化
(3)教育
- 株式会社,NPO等による学校経営の解禁
- 大学・学部・学科設置等の自由化
(4)農業
- 株式会社等による農地取得の解禁
(5)都市再生
- 高層住宅に関する抜本的な容積率の緩和
(6)労働
- 職業紹介事業の地方自治体・民間事業者への開放促進
(7)その他
- 株式会社等による特別養護老人ホーム経営の解禁
- 株式会社等による農業経営(農地のリース方式)の解禁
5つの追加重点検討事項
- 公共施設・サービスの民間開放の促進
- 労災保険及び雇用保険事業の民間開放の促進
- 国際的な高度人材の移入促進
- 自動車検査制度等の抜本的見直し
- 借家制度の抜本的見直し
|
第3次答申の内容はどのようなものか
第三次答申の内容は,最初に,「総論」的な「活力ある日本の創造に向けて」という部分があり,その後,第一章「分野横断的な取組」,第二章「分野別各論」となっており,二百ページ近い大部なものである(表2).
最初の「総論」的な部分に,規制改革会議の考え方がよく分かる文章があるので引用する.
「公的な関与が強く株式会社等の参入が原則禁止されている医療,福祉,教育,農業などの分野を『官製市場』と位置付け,民間開放の促進に取り組んだ.しかしながら,これら『官製市場』分野の規制改革は,当会議及び前身の規制改革委員会などの長年にわたる取組にもかかわらず,これまで一向に前進が図られてこなかった」
医療は,完全に民間に開放されているにもかかわらず,無理やりに『官製市場』と名付け,そこへ株式会社を参入させて金儲けをしたいという考え方が如実に現れている.
(表2)
総合規制改革会議第3次答申 目次
| 「第3次答申―活力のある日本の創造に向けて―」の決定・公表に当たって
第1章 分野横断的な取組
- 「規制改革推進のためのアクションプラン」の適切な実行
- 「構造改革特区」等による「官製市場」改革の推進
- 我が国の国際的な魅力向上のための規制改革
- 「規制改革集中受付月間」の推進
- 規制に関する基本ルールの見直し
第2章 分野別各論
- IT
- 競争政策
- 法務
- 金融
- 教育・研究
- 医療・福祉
- 雇用・労働
- 農林水産業
- エネルギー
- 住宅・土地・公共工事・環境
- 運輸
|
17の重点検討事項について
第一章の一「『規制改革推進のためのアクションプラン』の適切な実行」のところでは,「十七の重点検討事項をめぐる一連のプロセスにおいて,今回,関係各省と合意に至ったものについては『具体的施策』として掲載した.また,総合規制改革会議として強い問題意識の下,関係各省に対しその考え方を主張しつつも,今次プロセスにおいて関係各省と合意に至らなかった点については,総合規制改革会議の見解として『現状認識』及び『今後の課題』などとして掲載した」と述べている.そして,「十二の重点検討事項については大きな進展が図られていない」と自らの取り組みの失敗を認めている.
今回の答申で,十二の重点検討事項のなかで,医療に関連が深く,かつ関係各省と合意に至ったとして『具体的施策』として掲載されたのは,「医薬品の一般小売店における販売」のみである.医薬品のなかで,安全上特に問題ないものとして,厚労省が選定した約三百五十品目の医薬品を,医薬部外品として一般小売店での販売を認めるという内容である.(平成十六年早期に実施予定)
分野別各論の医療・福祉関係はどんな内容か
分野別各論の最初に「問題意識」として,「医療分野のIT化の推進などに関しては,進捗が遅く依然として目にみえる成果が得られていない」と述べ,この問題を当面の重要課題と位置づけるとしている.
具体的施策として,以下の十項目をあげて,逐次実施を求めている.
一,医療提供者に関する徹底的な情報の公開
二,IT化の推進による医療事務の効率化と質の向上
三,オンラインによるレセプト請求原則化のための条件整備
四,電子カルテシステムの普及,医療用語・コードの標準化・徹底等
五,EBMの一層の推進
六,保険者機能の充実・強化
七,診療報酬体系の見直し等
八,我が国における外国人医師・看護師による医療行為等の解禁
九,高齢者介護の新しい仕組みの在り方
十,薬学教育六年制導入に伴う薬剤師国家試験の受験資格見直し
今後の問題点は何か
今回の答申では,医療に関連の深いもののなかで,『具体的施策』として掲載されたのは,「医薬品の一般小売店における販売」のみである.しかし他の事項についても,『現状認識及び今後の課題』として引き続き規制改革に取り組むように求めており,その基本的姿勢に変化はない.
特に,「株式会社の医療機関経営の解禁」と「いわゆる混合診療の解禁」の二つの項目については,これによって,医療での金儲けを画策する考え方を強く主張し続けている.
国民皆保険,現物給付,フリーアクセスの三つの柱によって支えられている,世界に冠たる日本の医療保険制度を維持し,さらに発展させるためには,このような考え方に断固として反対していく必要があると考える.
なお,追加重点検討事項のなかの「労災保険の民間開放の促進」の問題は,今回は委員のなかからも反対意見があって否定されたものの,今後の動きを注意深く見守る必要がある.
|