日医ニュース
日医ニュース目次 第1030号(平成16年8月5日)

野中博常任理事,介護保険制度を語る
ケアマネジメントの徹底を主張

 平成十二年四月,現場の努力に支えられ,スタートした介護保険制度.本制度も,サービス利用の拡大にともなって,平成十五年四月には,保険料の引き上げと介護報酬のマイナス改定が行われた.
 そして,現在,社会保障審議会介護保険部会(貝塚啓明会長)では,介護保険制度施行後五年目に向けての制度見直しの方向性について検討中である.今号は,介護保険部会および障害者部会の委員である野中博常任理事(写真)に,見直しの内容について,特に,障害者福祉制度との統合問題を中心に解説してもらった.

介護保険部会と介護保険制度見直し

野中博常任理事,介護保険制度を語る/ケアマネジメントの徹底を主張 私が,介護保険部会に参加した本年四月頃から,財源的な問題もあり,「被保険者の範囲」の見直しの議論が始められた.その内容は,六十五歳以上の要支援・要介護の方だけでなく,三障害(身体障害・知的障害・精神障害)も含めたすべての障害者に対象を広げ,保険料も二十歳以上から徴収すれば,持続可能な制度になるのではないか,というものである.
 特に,六十五歳以上の障害者は,すでに介護保険のサービスを受けており,厚生労働省もその実態を踏まえて,介護保険制度と障害者に対する支援費制度の統合という提案をしているわけである.
 私は,こういう機会に,国民みんなで支え合うから,わずかな負担で自立できるという視点で,社会保障制度を議論することが必要だと考えている.

障害者部会の状況について

 昨年四月から始まった障害者の支援費制度は,初年度から予算が不足し,社会保障審議会障害者部会では,これを継続的に行うための議論が進められてきた.
 六月二十五日の会合では,八つの障害者団体からのヒアリングを行い,今後の障害保健福祉施策についての中間的な取りまとめとして,「介護保険制度の仕組みを活用することは,現実的な選択肢の一つとして,広く国民の間で議論されるべきである」とする部会長案が提示された.その後,この部会長案は,介護保険部会に提出され,意見交換が行われた.
現在の支援費制度は,身体障害者・知的障害者・障害児を支給対象としているが,精神障害者は対象ではない.精神障害者は,医療では地域生活支援という部分があるが,むしろ支援費制度とか介護保険制度に入ることを望んでいるようである.
 支援費制度と介護保険制度を統合すれば,財源的には広がるというメリットがある.一方,これまで一〇〇%公費でサービスを受けていた障害者の方たちは,統合することによって,保険料や利用者負担が発生するなど,解決しなければならない問題点は多い.
 介護保険部会でも,統合については賛否両論があり,意見の統一は難しくなりそうである.

高齢者介護保険制度と障害者福祉制度

 障害者福祉制度は,支援費制度ができたおかげで,従来サービスを利用できなかった方が利用できるようになった点は良いのだが,「出来高払い」のため,青天井になって財源が不足している.
 一方,介護保険制度の場合も,利用する高齢者が増え,ニーズが多くなってきたため,保険料を上げなければならず,どちらも財源的に将来不安が出てきている.
 そこで,介護保険部会や障害者部会では,制度の持続可能性から,両者の統合が中心的な課題になってきたわけである.それは,ある面では理解できるが,障害者と高齢者とでは,自立あるいは社会参加という点では意味が違う部分もあるので,それらをきちんと解決していかないと,安易に統合はできないだろうと思う.
 社会保障制度は,「自助・共助・公助」を適切に組み合わせて構築されるべきであるが,公助をどうするのかという問題について,ある程度,方策を明確に示さなければ,国民の理解は得られない.もしも統合するのなら,国民的な合意を得るような説明責任を,国には果たしてもらいたいと思う.

適切な医療提供体制とケアマネジメントの重要性

 日医総研の調査によれば,介護保険の受給者の四割が要支援・要介護1の軽度者で,その機能低下を改善するサービスはほとんど提供されていない.それは,ケアマネジメントの認識の欠如によるものだと思う.
 最近,パワーリハビリテーションとか痴呆予防など,介護予防についての種々の提案がなされているが,本人の意思や希望を入れた適切なケアマネジメントを徹底することで,その効果は上がるわけである.
 介護保険制度あるいは支援費制度においては,本人の意思を加えてケアマネジメントを十分に話し合うことが必要であり,それを理解していくことが,これらの制度を持続可能にする.財源ではなく,ケアマネジメントの徹底が最も重要なことである.
 今後,ますます増加する痴呆性高齢者に対しては,家族などによる早期発見とかかりつけ医への相談,そして,かかりつけ医と専門医との連携などの実現が重要である.さらに,在宅生活とグループホームの利用についても,適切なケアマネジメントに基づく介護サービス計画の立案と,その実行が重要だと思う.
 さらに,患者さんにとって,必要な時に最良の医療が受けられる体制にすることが重要であり,介護保険制度の見直しでは,今後ともその点を指摘していきたい.

統合に関する日本医師会の見解

野中博常任理事,介護保険制度を語る/ケアマネジメントの徹底を主張 統合は,介護保険制度の施行前から検討されていた課題だが,これが実施されれば,介護保険制度に大きく影響を与えるので,十分な検討が必要である.特に,三障害(身体障害・知的障害・精神障害)に対する在宅支援については,現状では課題が多くある.財政的な側面に重きを置いた形での見直しには,直ちに賛成できない.
 適切な社会保障制度が実現されるには,国民として,共助のための保険料を支払う義務が生じる一方で,政府は適正に公費負担をすべきである.何らかの疾病や障害を抱えた国民は受難者であって,保険の恩恵を受けても決して受益者ではないはずである.だから,過度な負担を伴う制度は,適切な社会保障制度とはいえず,この点に対する認識を強調したい.
 広く国民から支持される社会保障として実感されるためには,財政的な裏付けに加えて,ケアマネジメントあるいはソーシャルワークの徹底と適切な医療提供体制が重要であり,この点についての検討と合意が必要だと考えている.
 支援費制度も,介護保険制度も,財源不足を解消するために,単に被保険者や受給対象の範囲を見直し,二十歳から保険料を徴収すればよいといった話ではない.もっと高い次元で社会保障制度全体を考え,連帯―共助といった国民的な合意が得られるよう,議論することが先決だと,日医は主張している.まずは,国が今後の方針を示して,それに対して討論すべきである.社会保障に関する国の姿勢が問われているといっても過言ではない.
 なお,日医は,これらの考え方を,「介護保険制度見直しについて」という意見書にまとめ,六月二十八日開催の介護保険部会に提出した.

このページのトップへ

日本医師会ホームページ http://www.med.or.jp/
Copyright (C) Japan Medical Association. All rights reserved.