日医ニュース
日医ニュース目次 第1031号(平成16年8月20日)

視点

いわゆる混合診療と特定療養費制度

 日本の医療保険制度の優れた特徴として,国民皆保険体制,フリーアクセス,現物給付方式の三点が挙げられる.
 現物給付方式とは,健康保険料を払って被保険者になると,病気というリスクが発生した時には,保険医療機関を受診して,医療(治療)という現物を給付してもらえるという制度である.保険医療機関(保険医)は,保険証を持参した患者さん(被保険者)に対して,医療を提供(現物を給付)する役割を担っている.医療を提供したことへの対価(報酬)は,診療報酬として保険者から支払われることになる.つまり,医療機関と患者さんとの間に,本来,金銭の授受が存在しない制度なのである.一部負担金は,保険者が支払うべき費用の一部を,保険者の代わりに医療機関が患者さん(被保険者)から徴収しているものである.
 金銭の授受のないところに,医療の対価として余分なお金を取る,いわゆる混合診療は存在しない.医師の判断で必要な医療をいくら提供(現物給付)しても良いが,その対価である診療報酬は,あくまで保険者から支払われるので,現実には,診療報酬点数表にないものは支払われないということになる.
 いわゆる混合診療に類似したものに,特定療養費制度がある.療養費制度とは,現物給付を原則とする医療保険制度の例外として,一定の条件のもとで現金給付を導入したものである.例えば,旅行先で病気になり,保険証を持っていなかったために現金で診療費を払った場合,後で領収書を添えて保険者に請求すると現金(療養費)が給付される.これが療養費払いの制度である.この療養費払いの制度を高度先進医療等に導入したのが特定療養費制度である.
 つまり,この制度は,日本の医療保険制度の優れた特徴である現物給付の例外として,現金給付を導入したものである.入院の食事代や長期入院者の入院代に療養費制度を導入したのは,保険費用減らしに,この制度が悪用された実例である.特定療養費制度は,高度先進医療のように,将来,保険制度に取り入れることを前提にしたものに限るべきである.
 いわゆる混合診療の導入や特定療養費制度の安易な拡大は,日本の優れた医療保険制度を破壊することになる.結局は,お金を持っている人だけが良い医療を受けられることになり,アメリカのように,低所得者や高齢者などの弱者は切り捨てられる.

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