日医ニュース
日医ニュース目次 第10311号(平成16年8月20日)

勤務医のひろば

12万人の医師不足,医師の社会的責任

 医師過剰として医学部定員削減が進められている.しかし,一九九九年のOECDデータ人口千人当たりの医師数は日本が一・九人で,加盟国平均は二・八人だ.もし,日本の現在の医師数二十六万人をOECD平均で試算すると,三十八万人で「十二万人不足」だ.日本の医師増加は,年に三千人だから現在の世界平均まで四十年,小児,救急,麻酔はもちろん,地方の名義貸しの解消も不可能だ.
 さて,OECD平均の医師がいる米国「MD Anderson癌センター」上野直人医師によると,同センターでは抗がん剤投与ミスを減少させるため,「医師に処方箋を書かせない」システムに変えたそうだ.その理由は,「忙しい医師が処方箋を書くと必ず間違えるから」である.一方,日本では,医師は当直明けもなく,寝不足でも,間違えれば責任と免許奪までが叫ばれる.
 医療事故等の問題で,病院や勤務医を見る目は厳しいが,背景には,世界一高い物価のなかで理不尽に抑制された診療報酬と,世界一高く規制された薬剤や医療材料,さらに労基法無視で働かざるを得ないマンパワー不足がある.
 財政赤字のため医療費抑制と株式会社参入が叫ばれるが,日本はGDPの七割にあたる三百四十七兆円を国家予算として使っている.欧米先進国の国家予算はGDPの二〜三割が一般的で,日本も小さな政府に構造改革すれば,国民負担増なしに,医療・福祉・年金を充実させることも可能だ.
 国民そして患者の権利を,市場や社会の圧力から守るのは,医師の社会的責任だ.

(済生会栗橋病院副院長兼外科部長 本田 宏)

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