日医ニュース
日医ニュース目次 第1033号(平成16年9月20日)

勤務医のひろば

新しい医療を導入するのに何が必要か

 医療に新しい概念や思想が次々と導入されている.「インフォームド・コンセント」はすでに古語,「リスクマネジメント」は常識,「アカウンタビリティ」「パミアビリティ」「クオリティ・インプルブメント」も普及してきた.「アドボカシー」はまだ目新しい.患者の権利の擁護という意味だそうだ.それにしても,なぜ全部英語なのだろうか.
 私は何も横文字は嫌いだなどといっているのではない.舶来思想であっても,自家薬籠中のものとすれば,患者にとって,医療にとって益するところ大であろう.
 すなわち,十分な説明のうえ同意を得,危機管理を行い,説明責任を明確にして,医療の透明性を確保し,質の改善に努め,患者の権利と利益を擁護する.これらの主張は正しい.
 しかし,忘れてはいないか.このような理想を実現するには,マンパワーが必要である.現実には,ほとんどの医療機関で医師にしろ,看護師にしろ,すべての医療従事者は体力的にも時間的にも,ぎりぎりの状態で勤務している.はっきりいうべきである.「時間がない,人手が足りない,金もいる」
 新しい思想を広く知らしめ,吟味し,良いものを取り入れる姿勢は是とする.しかし,実現には「人は何人,費用はいくら必要か」を考える,これは常識である.
 医療のあるべき姿を語るのは良い.しかし,語ることと実行することの間には距離がある.それを体力と気力で埋めよ,というのは論外だ.医療はスポ根マンガと違うのだ.「患者の立場に立った医療」が医療人の義務であるとしても,それを実現するための経済基盤の整備は,行政の責務である.

(国家公務員共済組合連合会大手前病院診療部長 片桐 修一)

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