日医ニュース
日医ニュース目次 第1039号(平成16年12月20日)

勤務医のひろば

ヒポクラテスの再評価

 院長室に鳥取県倉吉市の長谷川富三郎氏の大版画「ヒポクラテスの誓」を掲げている.大学在職中にいただいた.
 ヒポクラテスの横顔を上に,ヒポクラテスが六人の弟子に見守られて,親に連れられた子どもに手を差し伸べている図が下に,その間にヒポクラテスの誓いの言葉が添えられたものである.
 長谷川富三郎氏は,十項目を超えるヒポクラテスの誓いを,次のように要約された.
 一,医業に携わることを許されたからには,全生涯を人道のために捧げる.
 一,人間の生命を受胎の初めから至上のものとして尊敬する.
 一,患者の健康と生命とが第一の関心事である.
 一,医業の名誉と尊い伝統とを保持する.
 一,患者の打ち明けるすべての秘密を厳守する.
 現代に通じる項目を選ばれたと思う.
 ヨーロッパでは,長らく医学部の卒業式でヒポクラテスの誓いが朗読された.ヒポクラテスの誓いは,医師として世に出ようとする人に,医師と患者の間の正しい関係を示し,医師の職業の尊さと責任とを,簡潔に,しかも余すところなく教えている.
 医学・医療がどのように現在の姿になったかを学ぶことは,日々の臨床を見直すことになる.また,病人よりも病気に関心があるといわれる現代の医療を,もう一度,病人本位の医療にするためにも,医学・医療の歴史を学ぶ必要がある.
 ヒポクラテスに対する最近の評価は,次の二点であろう.第一に,病気という結果からスタートして原因を探し求める,詳細で厳密な臨床観察である.第二に,医師の患者への献身と深いかかわり,治療に当たっての正直さと慎重さである.

(鳥取赤十字病院長 生駒尚秋)

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