日医ニュース
日医ニュース目次 第1041号(平成17年1月20日)

藤村伸常任理事に聞く
医事紛争の現状と日本医師会医師賠償責任保険制度

 医療事故の多発等により,国民の間に,医療への不信感が増し始めている.適切な医療を行ううえでも,医師と患者の信頼関係を回復することが喫緊の課題となっており,日医としても,現在,さまざまな取り組みを行っているところである.そのようななか,日医の医療事故に対する取り組み,「いわゆるリピーター医師」への対応などについて,医賠責・医事紛争担当の藤村伸常任理事に話を聞いた.

藤村伸常任理事に聞く/医事紛争の現状と日本医師会医師賠償責任保険制度
わが国における医事紛争処理

 すべての医療行為は,多少なりとも避けがたいリスクを伴っている.医療には,医師側,患者側双方に不確定な要素があまりにも多く,時として医療事故が発生するのである.
 一方,社会には,「医療は間違えてはならない」という過剰な期待があるため,しばしば医事紛争が起こり,医療の進歩,複雑化に伴い,紛争の頻度も年々増加傾向を示すことになる.しかし,一般的に医療過誤の有無と医事紛争の発生との間には明白な因果関係は証明されていない.HMPS(Harvard Medical Practice Study)の報告に見るとおり,米国における医事紛争では,賠償金額の多寡は,医療過誤の有無やその程度とは相関しないことが明らかになっているのである.
 医事紛争は,患者側にも医師側にも苦痛を伴う不幸な事態であり,できるだけ早期に解決を図るべきである.医師賠償責任保険は,医療過誤が証明された時に,患者に対し,相応な賠償を行うとともに,医師に対しては経済的負担を軽減させるための,日常診療における安心の支柱でなければならない.わが国の医賠責保険には,「日医医賠責保険」と損害保険会社が販売する「一般医賠責保険」との二種類がある.
 日医医賠責保険制度は,日医A会員に自動付帯している「日医医賠責保険」と,A会員が任意加入する上乗せ保険である「日医医賠責特約保険」から成り立っている.この制度の最大の特色は,公正中立な第三者機関である賠償責任審査会を持ち,その審査を基軸に日医,都道府県医師会および保険会社が協力して紛争処理に当たるところである.日医医賠責保険には,一事故百万円の免責金額が定められているので,別に「日医関連百万円保険」が損害保険会社により販売されている.
 一般医賠責保険には,病院・診療所を対象とした「医療機関単位の医賠責保険」と,学会などを窓口にした「個人単位の医賠責保険」との二種類がある.医事紛争が発生した時には,訴訟,調停,和解,あるいは裁判外の示談などの手続きに従って解決が図られるのである.この際,いずれかの保険制度が利用されることになる.

医療事故に対する日本医師会の対応

 医療事故の再発を未然に防止するためには,事故事例をでき得る限り収集して,集積されたデータを徹底的に分析した後,類似事故の再発防止策について,すべての医療機関に情報を提供するべきだと考える.厚生労働省も,国立病院機構などの大病院を対象にした医療事故の対応策を,予算措置を行い発足させているが,いまだ端緒についたばかりである.
 日医の会員は,不幸にして医事紛争が発生した時には,その事実を都道府県医師会長に報告して,紛争処理を委託することになっている.このうち,解決困難な一部の事例のみが日医に付託され,賠償責任審査会の審議にゆだねられる.つまり,日医会員に関わる医療事故と医事紛争については,資料を収集して検証することが可能な状況にある.
 ただし,会員個人からの報告あるいは日医への付託は,あくまでも医賠責保険を用いた事態解決を目的にしたものである.これらの内容は,個人情報として厳重に管理され,詳細の漏出を防止しなければならない.
 日医は,二〇〇四年十月から,都道府県医師会にアンケート調査を依頼し,過去三年間における紛争処理の実態を全国的に収集し,分析を進めている.データは事故の再発防止を目的に,その形態と傾向とを把握するためにのみ利用したい.
 その他,日医としては,患者の安全確保対策室が中心となり,生涯教育,医療安全対策,自浄作用活性化,会員の倫理向上などの各委員会が連携して医療事故防止に関わる対策に取り組んでいる.

「いわゆるリピーター医師」について

 医療界においてリピーターとされるものは,医療事故や医事紛争を繰り返し起こす医師,あるいは医療施設を意味する言葉として定着しつつある.最近では,マスコミも患者家族会などもリピーター医師を告発する運動を強めていて,厚生労働省も行政処分を含めた対応策を実施しようとしている現状である.何よりも,リピーター医師という概念が肥大化して,安全で良質な医療を求める国民の医療不信を助長することが危惧されるところである.
 このような厳しい社会の風圧の下で,日医としても,「いわゆるリピーター医師」に関して対応策を強化することが焦眉の急である.現在,日医で検討を進めているリピーター医師に対する再教育制度の構築が,医療事故の再発防止を目指した具体的な方策の一つである.
 前述のアンケート調査によると,再教育の対象者と認定されるリピーター医師が,全国で百二十名程度存在する事実が浮上してきた.ここで留意しなければならないことは,対象者のかなりの部分が医療機関の責任者として管理責任を問われた者であり,自らの過失や未熟な行為によるものとは断定できないという事実である.
 また,不確定要素の多い医療においては,不可抗力の領域も考慮されなければならない.つまり,リピーター医師といえども,その責任度には濃淡がある.この点を十分に理解したうえで,都道府県医師会長と協議しながら,対象者の選定を進めなければならない.

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