日医ニュース
日医ニュース目次 第1048号(平成17年5月5日)

視点

国民負担率の危険性

 政府は,財政支出を抑制するため,いわゆる混合診療を解禁することによって,公的保険でカバーする範囲を縮減することを目指している.そして,それを実現するための手段として,「国民負担率」を持ち出し,「政府全体の歳出を潜在的国民負担率の五〇%程度に抑える」とし,そのためには,「社会保障支出を抑えるべし」と主張している.
 しかし,日医は,国民生活にとって最も重要な社会保障政策を立案するに当たっては,「潜在的国民負担率五〇%」という文言に拘束されるべきではないと考えている.
 国民負担率は,国民所得を分母とし,租税負担額と社会保障負担額を分子として算出されるもので,潜在的国民負担率は,国・地方の財政赤字額を分子に加えたものである.しかし,この「国民負担率」という考え方は,果たして,社会保障の仕組みにおいて適切なものなのであろうか.
 ここで重要なことは,国民負担率は,社会保障の財源を表すものではないということである.分子の一部である税金は,社会保障以外の目的にも当然使われ,また,税金にも社会保険料にも,法人税や保険料の企業負担分など国民が直接負担しないものも含まれる.
 しかし,「国民負担率」といういい方は,「収入の半分を持っていかれる」というように,国民を誤解させる可能性がある.さらに,分母となる国民所得についても,不必要に対象となる範囲を狭め,意図的に数字を小さくしてはいないかという問題がある.
 そもそも,政府のいうとおり国民負担率を抑えたとしても,患者さん,国民の医療費負担が,それだけ軽くなるというわけではない.公的給付は減るが,その分は患者さん自らが負担しなければならず,それは,必要な医療のすべてを提供するという現物給付制度の崩壊につながる.
 そうなれば,国民は私的保険に入らざるを得ないが,私的な保険会社は「加入者を選ぶ」ことができるので,保険料を多く払える人にはより良い条件で医療を保障し,病人には高い保険料を課したり,加入を拒否したりする事態が起きかねない.
 医療は,国民の皆が公平に受けられるものでなくてはならない.必ずしも適切とはいえない「国民負担率」という数字を使って,社会保障の財源を減らし,もって,公的給付を抑制しよう,ひいては総額管理制を導入しようとする政府の企てには,今後も引き続き,断固反対していかなければならない.

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