日医ニュース
日医ニュース目次 第1056号(平成17年9月5日)

「新しい医学の進歩」〜日本医学会分科会より〜

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がん診療の最先端
〈日本癌治療学会〉

図 センチネルリンパ節仮説
 日本癌治療学会は,米国癌治療学会(ASCO)と同様に十八の診療科からなり,約一万五千人の会員を擁し,がん治療を目指す本邦最大の学会である.
 毎年十月に学会は開催されるが,最近のがん研究・治療のトピックスを取り上げてみると,(1)cancer stem cell theory:がんにstem cell様の細胞が存在し,がんの転移や抗がん剤耐性に関与している(2)Clinical Trial Phase I/II―Phase III RCT:各種抗がん剤の併用療法の有効性に関する検討(3)新規抗腫瘍剤の開発:EGF受容体の抗体,イレッサ,アバスチン,アービタックス等の開発(4)GIST(消化管間質性腫瘍)に対するブリベックの抗腫瘍効果(5)ヘリコバクター・ピロリの惹起する炎症と胃がん発生の関係(6)DNAのepigenetic modificationとがんの発生:DNA methylation(通常メチル化されていないCpGアイランドのCpG配列のシトシンの五位がメチル化される現象であり,ヒトのがん細胞における転写制御に関与している)(7)マイクロアレイをはじめとした網羅的遺伝子解析とがんのcharacterizationなどが挙げられる.これらの各種研究は,いずれもがん患者にフィードバックされることを前提としたものであり,Transpational Researchを基本的理念としている.
 一方,会員の六〇%を占める消化器外科では,外科的治療の研究・臨床も周辺機器の開発や技術の向上により,素晴らしい進歩を遂げている.
 特に,低侵襲手術(minimally invasive surgery)は,内視鏡外科手術として発展し,いまや多くの臓器のがんを適応としており,食道,胃,大腸,肝のみならず,甲状腺や乳腺まで内視鏡下手術が行われている.もちろん,泌尿器科,産婦人科,整形外科などのがんにも適応とされている.
 この内視鏡下手術は,患者側には優しい手術(術後のQOLから見て)であるが,外科医側から見たら厳しい手術といえる.そこで,医・工学連携によって,より性能の高い手術機械が研究され,手術用ロボットの開発,鉗子の先端の触覚・力覚の研究も行われ,実用に近い.
 これらの内視鏡外科手術を,さらに適応拡大するために,がんから最初に転移するリンパ節(センチネルリンパ節=見張りリンパ節)を見つける手技も発達した.このリンパ節に転移がなければ,その先のリンパ節は郭清する必要がないという理論である().
 今後のがん治療は,従来の標準化治療から個別化治療,さらに,低侵襲治療がキーワードとなり,がん患者に対する治療戦略が展開されることを期待したい.

(慶應義塾大学医学部外科教授 北島政樹)

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