日医ニュース
日医ニュース目次 第1060号(平成17年11月5日)

厚生労働省試案に対する日医の見解
「国民皆保険制度の理念に反する」

厚生労働省試案に対する日医の見解/「国民皆保険制度の理念に反する」(写真)

 厚生労働省は,10月19日に医療構造改革推進本部の初会合を開いた.その席で,「医療制度構造改革試案」(以下,厚労省試案)を決定し,公表した.これを受けて,同日,櫻井秀也副会長(写真右)および松原謙二常任理事が記者会見を行い,厚労省試案に対する日医の考えを明らかにした.(於 厚生労働記者会室)

 まず,櫻井副会長は,厚労省試案に対して,「現在,厚労省の社会保障審議会医療部会,同医療保険部会などで,医療制度改革について議論を行っている最中であるが,その議論が煮詰まらないうちに,厚労省試案が出されたことは遺憾である.厚労省は,これらの審議会での議論のなかから,自分たちの都合のいい部分をつまみ食いしたような印象だ」と,不信感をあらわにした.

すべてを患者負担増に結びつけている厚労省試案

 櫻井副会長は,「医療費適正化といいながら,いかに医療費を抑制するかという姿勢に貫かれている」として,同案に対して,「基本的に反対だ」と繰り返し主張した.
 松原常任理事は,試案の各論に触れ,「生活習慣病の予防の徹底などは日医の考えと共通であり問題ないが,在宅医療の促進,病床転換等による平均在院日数の短縮などの達成状況によっては,実質的な医療費の総枠管理につながる可能性がある.また,公的医療保険の給付範囲の見直しのような短期的な対策にも大きな問題があり,そのすべてが患者負担増に結び付けられている.患者さんは受難者であり,その患者さんにさらなる負担増を求めることは,絶対に反対である」と話した.
 厚労省試案で触れられている,都道府県ごとに診療報酬を設定することについても,櫻井副会長は,「そもそも国民皆保険制度とは,日本国民一億二千万人がお互いに助け合うものであり,その理念に反している.例えば,ある県の医療費が安いから,保険料率を低くするというのであれば,その県内でも市町村によってばらつきがあるので,市町村単位ごとに保険料率を変えなければならないことになる.これは,自由民主党のマニフェストにある国民皆保険制度の堅持という公約にも反することになる」と主張した.
 松原常任理事は,「医療保険を使うのは,病気になったからであり,医療保険を使わずに済んだのは喜ぶべきことだ.医療保険の最大の受益者は,医療保険のおかげで安心して生活ができ,しかも,それを使わずに済んだ人である.受難者である患者さんに負担増を強いるなど認められない」と,改めて強調した.
 この後,櫻井副会長が,日医作成のパンフレット「世界トップレベルの医療を提供するために―日本の医療の現状と将来―」(下掲)をもとに,(一)日本の医療の評価は高い,(二)日本の医療費は安い,(三)厚生労働省の医療費将来予測は誤り,(四)国民の痛みの歴史,(五)寿命が伸びれば医療費は増える,(六)高齢者医療は高いのか―について説明を行った.
 そのなかで,特に,医療費の将来予測について,厚労省の予測は常に高く推計されていたことを指摘し,今回の案でも,予測値はまったく信頼できないものであると主張した.

「日医雑誌」11月号に同封
 

皆保険の恩恵を受けている企業

厚生日比谷クラブ会見室

 また,櫻井副会長は,ここ何年も患者負担が増大しているのに,事業主の負担は軽減され続けていることにも触れ,「社会保障という土台があるからこそ,日本の経済の発展がある.アメリカのような保険制度が脆弱な国では,医療費負担のために,企業が倒産寸前に追い込まれたりしている」と,実例を挙げ,従来の経済界の考え方がまったく逆であることを指摘した.
 この後の質疑応答では,保険の免責制度についての質問があり,櫻井副会長は,「保険の免責制度は,実質的な患者負担増である.日医は,公費負担を減らすためのあらゆる患者負担増にはすべて反対である.軽度な医療がカットされれば,年金と同じように保険料不払い運動が起きるだろう.医療費の実態を調査すると,大部分の人たちが使うのは軽度な医療である.これに保険が使えないとなれば,大半の人は保険に加入している意味が失われてしまう.また,このことで受診抑制が起きれば,軽症のうちに重大な病気が見つけられなくなり,かえって医療費の増大につながる可能性がある」と答えた.

厚労省「医療制度構造改革試案」に対する
日本医師会の見解(要旨)
  1. 社会保障審議会で議論が煮詰まっていないものを,試案として出したことは遺憾である.
  2. この試案は,財政のみを重視したものであり,医療の安全確保や質の向上について何ら触れていない.
  3. 中長期的対策における生活習慣病の予防の徹底は評価できるが,都道府県によって保険料や診療報酬が異なる制度は国民全体で支える国民皆保険制の理念に反する.さらに,3年目の検証は,運用次第では医療費総枠管理につながり,反対である.
  4. 短期的対策は,医療費適正化に名を借りた患者負担増である.患者さんは受難者であり,受益者ではない.公費負担を減じるための患者負担増には,すべて反対である.
  5. 特に,保険免責制は国民皆保険制度を崩壊させるものであり,絶対反対である.

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