日医ニュース
日医ニュース目次 第1060号(平成17年11月5日)

「新しい医学の進歩」〜日本医学会分科会より〜

12
超音波医学の最前線
〈日本超音波医学会〉

 僧帽弁口に生じた感染性心内膜炎の疣贅を心尖方向から3D心エコーで観察した.
 収縮期(左端の図)には疣贅は図の奥の左房に存在しているが,拡張期(右の三つの図)には僧帽弁を通って左室内に移動してくる(矢印)ことが分かる.
 日本超音波医学会の最大の特長は,医学・工学の連携にある.本年の学術集会も,その特徴をよく表しており一),最新のトピックスも,このなかに凝縮されている.
 昨今では,基本性能が高く,画質が良好な超音波診断装置が普及し,観察対象の大きさや動き・血流などを評価することは日常的に行われているが,最近行われている生体組織の弾性(硬さ)の診断は大きなトピックスである.体表臓器では組織内の腫瘤病変の検出を目的とし,その手法はtissue elasticity imagingといわれる.
 同じ生体組織の弾性評価でも心臓を対象とすると,心臓の筋肉が強く収縮するほど発生圧や心筋内ストレスは高くなることから,心機能評価への応用が期待される.今のところ,超音波で心筋の発生圧やストレス分布を簡単に表示できる方法はないが,それらの結果,生じた心筋の変位(心筋ストレイン)や,その変位速度(ストレインレート)の表示が実用化されており,局所心筋機能評価への応用が大いに期待されるところである.
 一方,コントラストエコー法や三次元表示の分野は,それぞれに開発の歴史は長いが,最近,機器の進歩とともに大きな前進が見られている.経静脈性の超音波用コントラスト剤はすでに臨床応用され,その臨床経験を重ねているが,最近は,循環器領域では心筋灌流の可視化・評価に,腹部領域では肝腫瘍の診断に関心が集まっている.
 三次元表示も,動きの少ない臓器や胎児の顔などへの応用はすでに行われていたが,収縮と拡張を常に繰り返している心臓においても,マトリックスアレイ型プローブでvolumetric scanningを行うことにより,リアルタイムに表示可能なまでに進歩している.
 さらなる画像の改善や得られた立体画像のより良い使い方などの工夫は今後も必要だが,かつての三次元表示のデータ収集と再構築の時間と労力を考えるとき,リアルタイムに表示される心臓の三次元画像を見ると,誠に感慨深いものがある.
 最初に,本学会の特長を医学・工学の連携にあると述べたが,これらの新しい技術を実用化にまで至らせたのは,医学側の要望に応える基礎技術・工学側のたゆまぬ支援のおかげである.医学・工学の連携の場を提供しているという意味でも,本学会の果たす役目は大きい.
 また,近年,生活習慣病や,いわゆるエコノミー症候群に対する関心が高まっているなか,動脈硬化や血管病変の超音波診断についても関心が寄せられ,これも重要なトピックスである.

【参考文献】
一,超音波医学 32(増刊号)2004年4月(学術集会プログラム・講演抄録集)

(日本超音波医学会理事長・国立大学法人山口大学医学部附属病院長 松崎徳

このページのトップへ

日本医師会ホームページ http://www.med.or.jp/
Copyright (C) Japan Medical Association. All rights reserved.