日医ニュース
日医ニュース目次 第1064号(平成18年1月5日)

「新しい医学の進歩」〜日本医学会分科会より〜

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統合失調症の新しい理解
〈日本精神神経学会〉

 二〇〇二年に日本精神神経学会は百周年を迎え,世界精神医学会議を開催した.その会期中にSchizophrenieの訳語としての「精神分裂病」を廃止し,「統合失調症」を使用することを提案した.その意図は,この疾患に対する社会的偏見と差別を払拭することにあったが,「統合失調症」は今や社会に定着したといえよう.
 統合失調症の理解は大きく進展している.脳機能画像解析は,統合失調症における脳萎縮を明瞭に示し,特に前頭葉・島・上側頭回の萎縮が目立つ.海馬萎縮は,初回エピソードの未服薬患者においても認められ,また非発症の双生児においても認められることから,統合失調症の海馬容積の減少が,素因を示すものか病的状態を示すものかの検討がなされている.
 統合失調症は遺伝的要因に加えて何らかの環境因との相互作用により発症すると理解されているが,遺伝子解析はゲノムワイドには1q21-q22,6p24-p22,6q21-q25,13q14.1-q34の四カ所が示されており,複数の連鎖研究で一致する候補遺伝子として,RGS4,DRD3,DTNBP1(dysbindin),NRG1(neuregulin 1),DAO,HTR2A,G72/G30,PRODH(proline dehydrogenase),COMT(catechol-O-methy transferase)などがある.
 統合失調症の近縁疾患を含めて統合失調スペクトラムとしてまとめる場合もあるが,連鎖解析の結果は,対象を厳密に統合失調症に限った場合よりも,対象を幅広くとった場合に有意差が出やすいというパラドックスがある.また,統合失調症の臨床診断によらずに,中間表現型としての眼球運動異常を指標とした遺伝子解析も一定の成果を上げている.
 このような候補遺伝子について,神経生物学的研究が展開されており,22番染色体長腕上のCOMTとPRODHについては,細胞レベル,遺伝子改変動物だけでなく,COMT遺伝子多型とヒトの注意機能との関連を示す報告もある.1番染色体異常を呈する家系から同定されたDISC1については,その結合蛋白が次々と同定され,それぞれの遺伝子改変動物を用いた行動解析が進められている.今や統合失調症研究は,最も成果が期待できる研究領域となった.
 統合失調症は,前頭前野・前部帯状回・上側頭回・海馬・視床における容積減少,血流低下,代謝異常があり,前頭前野(DLPFC)と側頭葉との機能的結合の障害あるいは視床の入力フィルター機能の障害による病態であり,これらの病態は,発症前の異常(神経発達の障害)を素因として,発症因子,エピソードの繰り返しが重なることにより,発症後の進行性異常(神経変性?)を呈する病態ということができようか.

【参考文献】
一,精神障害の臨床.上島国利,牛島定信,武田雅俊,丹羽真一,宮岡等(編集),日医雑誌特別号第131巻第12号,2004.
二,「脳から心の地図を読む」―精神の病いを克服するために.ナンシー・C・アンドリアセン(著),武田雅俊,岡崎祐士(翻訳),新曜社,2004.

(日本精神神経学会理事,大阪大学大学院医学系研究科精神医学教授 武田雅俊)

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