日医ニュース
日医ニュース目次 第1065号(平成18年1月20日)

勤務医のページ

座談会(最終回)
医療環境変革期における勤務医の役割

勤務医のページ/座談会(最終回)/医療環境変革期における勤務医の役割(写真)医師の偏在について

 池田 最後に,医師の偏在についてお願いします.
 浜本 島根県全体として勤務医数が明らかに少なくて,科によっては,ほとんど壊滅的なところもあります.島根県には隠岐という離島があり,そこに産婦人科医がまったくいなくなって,現在,お産ができない状況です.
 島根大学と県立中央病院で補充をしていますけれども,そこにも十分なスタッフはいませんから,それこそ過重労働になって倒れそうな状況です.全国的に医師を募集していますが,そう簡単に解決できません.
 うちの病院は地方でも都市型の病院なのですが,やはり大学の人員引き上げにあって,麻酔科医と小児科医は全然足りないのです.必要な手術数などもこなせないような状況が起きていまして,院長の最大の仕事の一つは,今のところ医師を確保することですね.
 三上 小児科医は女性医師が多いので,さらに医師不足になりやすいということはあるのですか.
 浜本 小児科医そのものは全国的にはそんなに減っていないと思いますが,大学の医局の医師数を見ると,足りない状況で,なかなか送っていただけないのです.
 三上 小児救急に関しては,拠点病院,センター化をして集約しようという方向ですね.
 浜本 理想的には小児科医がいて二十四時間対応をするというのが,拠点病院の本来の姿でしょうけれども.
 山田 小児に関していうと,患者側の要因もかなりあって,救急時間帯というか,時間外にずれていって,その時間帯は開業の先生はやっていないという状況になると,病院は本当に大変です.
 何か抜本的な政策を出してもらわないと,難しいだろうと思います.往診はもちろん,夜間診療をしていない開業の先生が結構いらっしゃいますね.
 三上 昔は職・住が一緒で,自宅で開業されていたのが,このごろは住居が別で,夜間は無人になる診療所が多いので,そこがかなり大きな問題かも知れないですね.
 湧田 内科系,外科系は時間外の一次対応を,市単位ぐらいでやっています.ある拠点の施設を市が提供して,そこに医師が交替で出務する.小児科でもそれができればと思います.
 特に,小児救急の場合は,一次,二次という分け方ができない.つまり,一次をほとんど診なければいけないというスタンスだから,病院で重症を診る先生でなくてもやっていただけるのではないかということもあり,ある一カ所の拠点に出務していただく方が効率的かなとは思うのです.
 三上 これは医師会でも取り組んでいるのですけれども,小児救急の場合,九割方は時間外の患者が多いのです.それも非常に軽い症例も多く,全体の二〇%くらいが電話相談による〇・五次という形で解決できます.もう一つは,休日急病診療所のような形で一次を診るということが,二次医療圏ごとにあるわけです.
 ところが,どうしてもセンター病院に一次の方が集中してくるものですから,当直する先生方が疲弊してしまうことになります.医師会としては,一次を診るための休日急病診療所のような形で,小児科だけでなく,内科を標榜している人も研修を受けて,開業の先生方が交替で,そこに出務していただくようなシステムを進めています.
 山田 うちの病院では研修医二年目から救急の当直がありますが,最終的に本当に診られるかどうか,やはり医療訴訟の問題や思わぬ病態など,いろいろな場合があって,なかなかそこまで経験や知識が蓄えられないし,ちょっと辛そうな感じがします.
 三上 そういう意味では,自治体が責任を取れるような形にしているところが多いですね.
 内藤 小児の場合は,訴訟という問題が大きいと思います.薬についても,お子さんの場合は体重などによって用量が随分違いますから,細やかな知識が必要です.
 やはり訴訟に関して,善意でやったことで訴えられたら,それだけで大変なストレスになるでしょうから,なかなか出務してくださる先生はいないでしょうね.
 池田 今の訴訟の問題が,産科の医師を減らした原因の一つともいわれていますね.
 内藤 外科もそのうち,訴訟が原因で,やっかいなものを手術してくれる先生がいなくなってしまうかも知れない.成績を上げようとすれば,軽い手術だけやっていればよいわけですから.
 池田 地域的な偏在についてはどうですか.前期の勤務医委員会で,「へき地や離島に一度は行かなければ,大学の教授にも助教授にもなれない,病院の管理者にもなれない」という趣旨の答申をしましたが…….
 浜本 うちの病院には,今研修を受けている研修医のなかで,へき地医療に興味を持っている先生もいるようですので,そういう人には基幹病院でプライマリケア研修をしっかり行う制度を作ったらどうかという案は出ていました.
 ただ,へき地に行きっ放しでは絶対にだめで,どこか戻る所を作っておくべきだと思います.何年か交替でやっていくのが一つの案だと思います.
 田中 沖縄中部病院や長崎県は島が多いので,そういう制度を取り入れてやっているようです.学生のうちから奨学金制度を使い,へき地医療に関心がある人を対象に研修をしていく,初期研修は必ず島に何年間かは行かなくていけないというプログラムを作っています.
 二年間の初期研修のなかで,一カ月以上地域医療のプログラムを研修しなければいけないというようになっていますが,実態は地域の開業医の診療を見学しているケースが多いと思います.へき地医療に関心のある研修医に対しては,そこをもっとうまく活用するのも一つの方法かと思います.
 湧田 強制でやるよりも,へき地医療に情熱を燃やしている方に,そういう経験ができるような条件を整えてあげるのが先かな,という気がします.
 池田 一方で,何らかの強制力をもった方法でないと,個人の善意だけではなかなか解決がつかない時代になったと思います.
 内藤 大学の教授だけではなくて,それこそ医師会の会長になられる方も行くというくらいでないと難しいと思います.ある程度,義務的に埋めないと,善意では限界にきているから,こうなってしまったと思います.
 山田 卒後研修が二年終わって,たとえば眼科医になろうという先生に離島に行くことの価値があるかどうか.それは眼科の先生にとって価値があるかではなくて,離島の患者さんにとって価値があるかという問題があります.
 ジェネラリストの養成が,これまで大学でできていなかったとの反省から,今こういうシステムをやっているわけですけれども,これから本当にジェネラリストを目指して,最終的にプライマリケアを含めて全部診るというスタンスの人が育ってきて,はじめて離島研修というのが非常に役に立つと思うのです.ジェネラリストを養成して,その地位を社会的にきっちり確立する流れをもっと明確に作っていく必要があると思います.
 内藤 以前から日本の専門医制度というのはどうなのかなと思っています.大学に残って学会発表をして,試験を受けると専門医が取れます.専門医のハードルを高くして,そう簡単に取れないようなものを作った方がよいのではないでしょうか.
 三上 日医のなかでも,そういう議論を行っています.やはり,全人的医療という形で,眼を診る専門医であっても,体全体を診ながら眼を診るという感覚を養っていくうえでは,新しい研修制度は良いと思います.
 池田 「医療変革期における勤務医の役割」に関して,熱心にご議論いただきまして,ありがとうございました.

(終)

勤務医座談会 出席者

(司会)
池田俊彦(日医勤務医委員会委員長・福岡県医師会副会長)
田中俊江(麻生飯塚病院研修医)
内藤博邦(医療法人内藤病院副院長)
浜本隆一(松江赤十字病院副院長)
山田 仁(医仁会武田総合病院泌尿器科手術部長)
湧田幸雄(済生会山口総合病院副院長)
三上裕司(日医常任理事)

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