日医ニュース
日医ニュース目次 第1072号(平成18年5月5日)

唐澤人新会長に聞く
地域の医療データをベースに国民の求める医療を実現する
日医と会員,さらに国民との距離を近づける努力を

 四月一日,第百十四回日医定例代議員会において役員選挙が行われ,新たに唐澤人会長が選出された.本号では,唐澤会長にインタビューし,今後の医師会運営の抱負などを聞いた.

[聞き手は,中川俊男常任理事(左)]

唐澤祥人新会長に聞く/地域の医療データをベースに国民の求める医療を実現する/日医と会員,さらに国民との距離を近づける努力を(写真)“国民医療”が日医の医療政策の原点

 中川常任理事 まず,医療に取り組まれる姿勢,基本理念,それから会長就任に当たっての抱負を,併せてお聞かせください.
 唐澤会長 日医には,医療政策を提言するという大事な役割がありますけれども,実際は,医療提供の現場が最も大事だと思います.
 つまり,よく“国民医療”といいますが,医師や看護師さんなどが患者さんに直接医療を提供している,そのかかわり合いそのものが“国民医療”なのです.地域ごとに,生活や風土,歴史,生活習慣,疾病状況等,さまざまななかで,特色ある地域医療が存在しており,それらを総合的に視野に入れることが,日医の医療政策の原点だと考えています.
 全国的なレベルで各地域の医療にしっかり目を向けていくことが,これからの日医に最も大切なことであり,医療政策の立案に当たっては,各地域の医療の状況に関する情報を集めることが第一です.
 医療の基本理念とは,現場の医療担当者たちが医療を提供し,それを受ける皆さんが,「自分の求める,温かい良い医療だ」と思える,そういう医療を提供することだと考えます.医療を受ける皆さんの評価や満足度が重要で,本当に国民が望んでいる医療と合致したときに初めて,“国民医療”が大きな力を持って,医療を支える力になると思っています.

地域医療のデータベース化を実現

 中川 次に,会長に就任されるに当たって強調されてきた点について,お話しください.
 唐澤 現在,国の方針として,財政優先の医療政策が行われようとしており,医療提供体制は非常に厳しい状況です.そのなかで,医療の質の担保,国民皆保険制度の堅持,あるいは介護保険の今後の方向など,さまざまな問題があります.
 さらに,少子高齢社会を迎えた日本の,これからの社会の生産性や経済力を支えるために,働く世代の健康を守ることも医療の大事な使命ですし,高齢者が増加しますから,健康長寿社会の支えになる医療も大切でしょう.
 結局は,財政優先のなかで,国民の福祉をどう実現していくかが課題ですので,われわれは医療担当者として,国民が望んでいる医療・福祉というものを,現場から提言していかなければなりません.
 中川 特に,地域の医療をデータベースに集積し,国民の要望として,日医の医療政策に反映していくということですが,具体的にどのようにお考えですか.
 唐澤 厳しい医療財政削減の方向のなか,どう医療の質を担保していくかが迫られている状況で,医療機関の現況をしっかり把握する必要があります.それを短期間に把握していくためには,あらゆるタイプの医療機関の状況を把握し,それをデータベース化していく作業が大事ですので,早急にたくさんの地域医療の情報を集める作業を進めたいと考えています.
 また,どんなに効率の良い医療でも,国民にとって満足度の低いものであってはいけない.国民が,「ああ,良い医療だな」と思える医療の提供が第一です.それは各医療機関のさまざまな工夫によって成し遂げられると思います.数字だけのデータベースでは説得力が弱い.しかし,そこに国民の理解と支援がある,そういうなかでデータベースをつくり上げていけば,国や行政官庁を含めた多くの方々に,必ずや理解していただけるだろうと思います.
 中川 それによって,執行部と会員の距離が近づくというイメージでしょうか.
 唐澤 はい.会員が,日々,誠意と良識をもって提供している医療が,本当に国民の求めている医療と合致しているかを確認していくなかで,われわれ執行部と会員との十分な意思の疎通,情報の交換ができ,距離を縮め,親密感をもっていただく.一方,国民に対しても,医療はどうあるべきかを問い掛け,国民の望む医療をしっかり理解するという,この両面からの作業が,日医が力をつけていくためには大事だと考えています.

唐澤祥人新会長に聞く/地域の医療データをベースに国民の求める医療を実現する/日医と会員,さらに国民との距離を近づける努力を(写真)迅速な対応と情報の共有を図る

 中川 今後の会務運営についてのお考えを,お聞かせいただきたいと思います.
 唐澤 日医の会務運営は,規模も大きく,関連分野が多いので,対策・対応に時機を失することがないよう,どのような事態にも,できるだけ早く対応できるように努めたいと考えています.例えば,感染症や鳥インフルエンザといった問題,いわゆる就労世代の健康や生活習慣病の問題,あるいは医療施設の入院期間短縮の問題等は,ゆっくりやっていたのでは状況も掴めず対策もできません.国の政策・方針もありますが,われわれが医療を担当する者として,実際にどう取り組んでいくかも考えていくべきで,迅速な対応が重要です.
 さらに,情報をたくさん集め,それを会員の先生方に伝えることが大事で,分かりやすく,次の対応を考え得るような情報の伝え方をすべきだろうと考えます.直接,会員や国民の声を聞けるように,日医の会務運営を進めていくのが大切だと思っています.

悲観的将来予測に対抗できるデータを収集

 中川 医療を含め,社会保障制度改革全体は,財政主導型で進められています.これに対しては,日医として,どのように取り組むお積もりでしょうか.
 唐澤 財政主導の考え方は,かなり先の将来予測を前提として出てきていますが,本当にそうなのでしょうか.景気が上向いてきているとの情報もありますから,本当に十年先に国家経済が窮乏していく流れにあるのかどうか.
 また,実際に少子化・高齢化が進むなかで,疾病の状況,あるいは国民の健康や生命を守るという医療事業がどう動いていくのかまで,かなり先の悲観的予測の基に立てられていることには疑問をもっています.
 ですから,私たちは私たちなりに,これからの日本がどうなっていくのか予測を立てられるようなデータを,医療に関係する部分だけでも,しっかりと集めてみたいと思っています.

国民が求める医療提供のための方策を

 中川 最後に,会員の皆さんに訴えたいことを一言お願いします.
 唐澤 財政主導型の厳しい医療環境のなかで,国民に求められている医療を提供し,どうすれば国民の期待に応えられるかを,しっかり真剣に考えるべきときだと思います.
 そのことが,必ず私たちの医療を支え,日医を支えてくれる力にもなりますので,国民から評価されるよう,尽力していただきたい.
 そのなかで日医は,負託された務めを精一杯行っていきますので,ご理解とご支援をいただきたいと思います.

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