日医ニュース
日医ニュース目次 第1073号(平成18年5月20日)

「新しい医学の進歩」〜日本医学会分科会より〜

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神経内視鏡手術の現況
〈日本脳神経外科学会〉

図 第3脳室底にストーマを作成する場面
 脳神経外科の分野においても,過去に幾度か内視鏡の導入が図られたが,機器の精度やサイズもさることながら,内視鏡自体の厳密な滅菌法が確立していないため,容易には成功に至らなかった.主に脳室鏡としての応用が画策されたが,消毒を甘くすると高度な脳室炎を来す一方,十分な滅菌を施すと内視鏡が壊れるという状況から,一時はまったく顧みられなくなった.
 一方,一九九〇年ごろより高度な滅菌に耐える内視鏡が開発され,脳神経外科手術のいくつかに応用が広がってきた.
 第一に,脳室内手術が挙げられる.閉塞性水頭症の場合,穿頭術を行い前頭葉経由で脳室鏡を第三脳室に導き,その底にストーマを作ることにより,脳室とくも膜下腔を交通させる(図).この脳室穿破術は,すでに保険に収載されており(K174-1),安定した術式として広く行われている.
 脳室内手術としては,腫瘍のバイオプシーもしばしば行われる.現時点の機器や技術では,嚢胞性腫瘤の場合は全摘出も可能であるが,出血性の腫瘍では組織確認が目的となる.しかし,穿頭術のみで脳室にアプローチできるという意義は大きい.
 第二の主たる適応は,経鼻的な下垂体手術である.下垂体腫瘍に対する経蝶形骨手術は,顕微鏡下にいくつかの術式が発展してきたが,十年ほど前から,硬性鏡を用いて鼻腔奥から直接蝶形骨洞へと進入する手技が開発された.内視鏡を用いることにより,従来の死角の部分の腫瘍も直接観察しながら摘出することができるようになり,さらに鼻粘膜に対する侵襲も極めて軽度となった.内視鏡下手術としては,この二つが主流であるが,高血圧性脳内出血,頭蓋内嚢胞性疾患や脊椎外科にも用いられている.
 以上は内視鏡自体による手術であるが,通常の顕微鏡による脳神経外科手術のなかで内視鏡を支援機器として用いる場合が少なくない.脳動脈瘤をクリッピングするとき,母血管の裏側から重要な小動脈が分枝している場合がある.母血管の対側から内視鏡を挿入し,モニターしながら安全にクリッピングを進める.このような内視鏡支援は脳神経外科のような狭い術野で手術をする分野では極めて有用であり,手術を安全確実に運ぶ手段でもある.
 一九九四年には,日本神経内視鏡学会(http://square.umin.ac.jp/jsne/)が設立され,理論,技術,機器のさらなる向上を図っている.

(日本脳神経外科学会常務理事・日本医科大学脳神経外科主任教授 寺本 明)

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