 |
第1073号(平成18年5月20日) |
日医各種委員会報告書(その2)

労災・自賠責委員会答申
労災保険・自賠責保険を巡る諸問題について
労災・自賠責委員会(塩見俊次委員長)は,諮問「労災保険・自賠責保険を巡る諸問題について」に関し,より実現性のある具体的な方策を見出すべく検討を行い,答申を取りまとめた.
内容は以下のとおり.
今期は,「行動する委員会」を基本方針に,労災保険に関しては,(1)労災保険『二次健康診断等給付』の利用者数の低迷(2)前期委員会答申における長期的改革を実現するために(3)前期委員会答申における短期的改革を実現するために(4)労災保険に係る個人情報保護の問題等,自賠責保険に関しては,(1)自賠責保険等に係る個人情報保護の問題(2)自賠責保険診療費算定基準(新基準)の実施状況(問題点)(3)交通事故における健康保険の取扱いについて─を検討課題に挙げた.
特に,労災保険と自賠責保険の診療と「個人情報の保護」に関しては,「『個人情報の保護に関する法律』の施行に係る労災保険・自賠責保険等Q&A」をまとめ,平成十七年七月,答申の中間報告として会長に提出した.
また,今期の委員会においては,厚生労働省や日本損害保険協会等と労災・自賠責に関する医療現場の問題点等について意見交換を行った.
さらに,労災保険二次健康診断等給付の実施状況等および自賠責保険新基準の実施状況等について,特に医療現場の現状・問題点の把握を目的に,都道府県医師会の協力のもと,アンケート調査を実施した.
その他,交通事故診療の現場で依然として問題となっている「健康保険の使用・強要」に関し,医療機関が患者に健康保険を使うことによるメリット・デメリットを十分説明できるよう,リーフレット(案)を作成・提案している.
最後に,平成十八年度の健康保険診療報酬の改定に伴う「労災診療費算定基準」の改定要望事項をまとめた.なお,答申書のほかに,詳細な資料は別冊資料編としてまとめている.
(全文は,日医ホームページ・メンバーズルーム参照 ※要・会員専用アカウント)
有床診療所に関する検討委員会(プロジェクト)報告書
有床診療所の今後の在り方について
有床診療所に関する検討委員会(プロジェクト)(大道久委員長)は,諮問「有床診療所の今後の在り方について」に対して,報告書を取りまとめた.
内容は,(一)有床診療所の現況とその背景,(二)今後の有床診療所のあり方─からなり,巻末には,委員会における議論の基礎資料として,全国有床診療所連絡協議会の協力のもとに実施された,有床診療所の運営・財務状況の実態調査(同協議会会員を対象)の結果を添付している.
報告書では,医療法第十三条の四十八時間制限をはじめ,人員配置標準の評価,基準病床数への算入,医療安全についての提言が盛り込まれている.長年の懸案事項であった,四十八時間の入院期間規制については,強く撤廃を求めるとの提言がなされているほか,(一)次世代の医師のためにも,自由開業医制は存続させるべきであり,基準病床への算入には反対であること,(二)医師の人員配置については,従来通り一人医師を堅持すること─などが強く要望されている.
さらに,有床診療所が果たしてきた地域医療における役割とその特質を,制度的に存続させるためにも,看護要員等の人員配置に応じた,病院に相当する入院基本料の保証を強く求めている.また,医療機能に応じて医師・看護師等が必要な場合には,診療報酬上の施設基準によって対応されるべきであると指摘する一方,医療安全の確保や二十四時間体制を確保するために,連携する近隣の医療機関の協力医を確保することを要件とする必要性は認められるとした.
最後に,「有床診療所がこれまで果たしてきた地域医療における貢献や住民からの評価を十分に受け止めて,その存続に向けた適切な対応が取られることを強く求めたい」と結んでいる.
(全文は,日医ホームページ・メンバーズルーム参照 ※要・会員専用アカウント)
産業保健委員会答申
これからの産業医活動のあり方─特に嘱託産業医を中心として─
産業保健委員会(高田勗委員長)は,会長諮問「これからの産業医活動のあり方─特に嘱託産業医を中心として─」に対する答申を取りまとめた.
答申では,企業や労働者を取り巻く現状や,改正労働安全衛生法の成立(平成十七年十一月)により,過重労働・メンタルヘルス対策の充実・強化が図られ,産業医,とりわけ嘱託産業医に対して,広範かつ質の高い活動が求められるようになってきている.この点などを踏まえ,これからの産業医が,いっそう積極的に産業保健活動に参加し,事業者や労働者の期待に応えながら発展していくうえでの課題と,その解決について提言がなされている.
内容は,(一)はじめに,(二)これからの産業医への期待,(三)これからの産業保健活動の評価,(四)産業医に求められている基本的職務,(五)意欲あるプロフェッショナルの嘱託産業医の育成と発展を可能とする環境と体制の確立─の五項目である.
特に,(五)「意欲あるプロフェッショナルの嘱託産業医の育成と発展を可能とする環境と体制の確立」では,職場での産業医活動に臨床的経験を導入することなど,嘱託産業医が臨床医学を産業医学に適用し,産業医がかかりつけ医としての機能を果たすことも重要と述べている.
また,嘱託産業医の活動を発展させる環境と体制の確立には,(1)産業医の身分,地位,資格,社会的評価の向上と確立の体制(2)企業との産業医契約の促進と改善(3)産業医活動を活性化する報酬体系の確立と体制が重要としている.
さらに,(4)産業医への支援体制の確立(5)都道府県産業保健推進センター,地域産業保健センターとの連携体制の確立(6)事業場外資源とのネットワーク,連携体制の確立─など,これからの産業医活動のあり方について,さまざまな提言がなされている.
環境保健委員会答申
環境問題による健康影響と医師の役割
環境保健委員会(櫻井治彦委員長)は,諮問「環境問題による健康影響と医師の役割」について討議を行い,答申を取りまとめた.
内容は,(一)はじめに,(二)環境保健に関する基本的な考え方,(三)現状分析と課題,(四)医師としての責務と行動指針策定に向けて,(五)医師会の取り組み,(六)まとめ─の六項目からなる.
主な要点としては,(1)環境保健に関する医師の行動指針の必要性(2)環境保健に関する基本的な考え方(3)現状分析と課題(4)医師としての責務と行動指針(5)医師会の取り組み─について記載されている.
日医の役割としては,行政機関と連携し,行政機関の性格をよく見極めたうえで緊張関係にある協力体制を目指す必要があると述べ,さらに,第一線で診療に当たる医師が役割を果たせるような教育・研修やガイドラインの策定を準備する必要があるとしている.
医師としての責務と行動指針は,(1)環境保健に関して,より幅広い知識・技術を習得する(2)環境危険因子による健康障害を見逃さず診断し治療する(3)環境有害因子を除去・低減し,または曝露を防止するよう指導する(4)環境保健教育を実施する(5)社会に対して正しい情報を発信する(6)持続可能な社会の実現に向けて,医師自らが,環境に負荷を与えない行動をとる─としている.
医師会の取り組みは,(1)定点観測(2)行政への働き掛けと連携(3)医師への支援と情報提供(4)国民,地域住民への情報発信(5)緊急事態,災害への対応と組織編成(6)環境問題に対応する組織の強化と人材育成─の六項目にまとめられている.
医療安全対策委員会答申
患者の安全確保策について提言
医療安全対策委員会(大道久委員長)は,会長諮問「安心・安全な医療提供を実践するための政策の提言について」検討を重ね,報告書「安心・安全な医療提供を実践するための方策について─患者の安全確保に向けた自律的な取り組み─」を取りまとめた.
報告書は,これまで日医,医療関係者,国などによって実施されてきた患者の安全確保対策を踏まえたうえで,なお不幸な医療事故がなくならない現状を,いかにして克服していくかにつき,主に三つ((1)高度医療の提供における医療安全の確保(2)医療安全の向上に向けた医療担当者の自律的な取り組み(3)医療安全確保のための資源の投入)の観点から提言を行っている.
まず,高度医療の場における安全対策については,従来から論じられてきた組織内での透明性やコミュニケーションの確保といった面ばかりでなく,とりわけ新人職員や新しい技術に未慣熟な職員に対して徹底した教育・訓練の機会を確保することの重要性を指摘.
また,今後の医療提供のあり方として,患者および市民参加の促進,医療従事者,医師会を核とした自律的な医療安全活動による開かれたプロフェッショナリズムの醸成・強化が必要としている.
さらに,医療の安全確保のための資源投入については,現行の診療報酬では十分に対応できていない問題点を指摘したうえで,一般財源からの原資の投入などの対策も合わせて講じるよう求めている.
なお,同委員会では,今回の報告書を取りまとめるに当たり,過去に重大な医療事故を経験した大学附属病院から,その後の取り組みと成果についての報告を受け,そこから多岐にわたる提言を導き出しているが,これらの実例は,他の多くの医療機関にとっても示唆に富むものと思われる.
医事法関係検討委員会および「診療情報の提供に関する指針」検討委員会の合同委員会答申
医療専門職団体として取り組むべき患者の個人情報保護について検討
医事法関係検討委員会および「診療情報の提供に関する指針」検討委員会(プロジェクト)の合同委員会(村山博良委員長)は,「診療に関する個人情報の適切な取扱いを推進するための体制整備について」と題する答申を取りまとめた.
合同委員会は,会長からの諮問「『個人情報の保護に関する法律』の施行に向けて日本医師会が取り組むべき施策について」に対して,平成十七年二月に「医療機関における個人情報の保護」と題する報告書を提出(報告書は同名の会員向け解説書として,「日医雑誌」に同封して全会員に配布).その後も,“日医,都道府県医師会,郡市区医師会が,医療専門職団体として,患者の個人情報保護について,いかなる取り組みを進めていくべきか”に論点を絞って検討を続け,今回の答申を取りまとめるに至った.
報告書のなかでは,日医をはじめ医師会組織は,当面,患者の個人情報保護に関する体制整備を,自律的な取り組みとして着実に実施していくことが重要との見解を明示.日医が医療分野の個人情報保護に関して示すべき標準的な指針として「診療に関する個人情報の取扱い指針」を,また,個人情報に関する患者等からの苦情や相談を受け付け,確実な対応を図るための体制づくりのための指針として,「診療に関する相談事業運営指針」を,それぞれ提示している.
医師会組織が「認定個人情報保護団体」となるべきか否かについては,慎重な判断が必要とし,当面は医師会独自の自律的な枠組みのなかで,患者の個人情報保護の取り組みを進めていくことが重要であるとしている.
(注)本報告書が提出されたことを受けて,日医では慎重な審議を行い,二つの指針を制定することとし,一年以内に別途定める日から施行することを決定した.
女性会員懇談会報告書
女性医師に関わる諸問題について討議
女性会員懇談会(保坂シゲリ委員長)は,今期の活動の記録を中心に報告書をまとめた.
「女性医師に関わる諸問題について自由に討議してほしい」との委員会の性質を踏まえ,(1)今期のみではなく継続した活動のための基礎づくり(2)女性会員のみによらない活動(3)具体的,実現的な提言を行い,目に見える結果を出す─の三つの基本方針を掲げ,議論してきた.
報告書では,懇談会で企画して実行したさまざまな活動((1)新医師臨床研修期間中の産休について(2)女性ドクターバンク,休職医師の再研修システムづくり(3)日医各講習会での託児施設の設置(4)日医ニュース「女性会員懇談会から」への掲載(5)日医男女共同参画フォーラムの開催(6)その他)を中心に取りまとめた.
また,資料として,懇談会が企画して行った「都道府県医師会における女性医師に関わる問題への取り組み状況調査」の結果なども掲載している.
(全文は,日医ホームページ・メンバーズルーム参照 ※要・会員専用アカウント)
会員の倫理・資質向上委員会報告書
「医師の職業倫理指針」徹底の具体的方策
会員の倫理・資質向上委員会(森岡恭彦委員長)は,諮問「『医師の職業倫理指針』徹底の具体的方策」に対して報告書を取りまとめた.
報告書では,日医の自律的取り組みとして,特に(一)日医による都道府県・郡市区医師会での自浄作用活性化活動のさらなる支援,強化,(二)医師の生涯研修(倫理や医療事故対策などの問題も含む)の強化・必修化,(三)日医,都道府県・郡市区医師会による,各大学・研修指定病院との連携強化を通じた,医学生や若い医師の教育・人格養成への協力,(四)非会員医師,特に若い医師の日医入会の促進についての対策─について,検討・実行することを要望している.
報告書の巻末には,委員会が実施した「世界主要国の医師の管理機構と医師会の役割」に関するアンケート調査結果を紹介している.そこでは,アメリカ,イギリス,カナダ,ドイツ,フランス,韓国,イスラエルにおける(一)医師免許,(二)医師会の組織,(三)医師会の活動(1)政府の医療政策への関与(2)倫理・懲罰,(四)医師会の広報活動─の各項目を比較した一覧表を示したうえで,その考察を行っている.
また,委員による調査報告として,「アメリカ医師会と医師の懲戒制度について」「カナダ医師会と医師の懲戒制度について」「ドイツの医師免許制度と医師の加入する団体の懲戒制度」「フランスにおける医師の規律のあり方」「イギリスの医師団体と倫理執行」を収載している.
さらに,日本における専門職団体の強制加入制度として,日医と強制加入制度に係る歴史的背景・経過や,弁護士会等の専門職団体における強制加入制度の現況について紹介している.
|