日医ニュース
日医ニュース目次 第1077号(平成18年7月20日)

「新しい医学の進歩」〜日本医学会分科会より〜

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慢性腎臓病(CKD)対策
〈日本腎臓学会〉

 現在,わが国の透析患者は二十五万七千七百六十五人おり,昨年一年間に三万六千六十三人が新しく維持透析に導入された.これは前年より九百七十九人(二・八%)増加したことになる.すなわち,わが国の人口百万人当たりの透析患者は二千十七・六人であり,年々直線的に増加し,今や国民四百九十五・六人に一人が透析患者という状態で,医療経済にも深刻な影響を及ぼしている.このような透析患者の増加の背景には,その予備軍が多数存在し,その数も増加しているためと推測される.欧米においても同様の現象が起こっている.
 この世界的な現況をとらえて,米国腎臓財団(national kidney foundation: NKF)は,chronic kidney disease(CKD)(日本腎臓学会では“慢性腎臓病”)という新しい概念を提唱した.CKDは,増加する透析患者の予備軍となるばかりでなく,心血管事故や死亡への新たなリスクファクターであることも明らかにされている.
 CKDの定義は,次の(1),(2)いずれかを満たすものである.すなわち,(1)三カ月間以上腎障害が機能的または形態的に持続する病態でGFR(糸球体ろ過量)低下は問題にしない.その診断法として腎生検または臨床マーカー(血液や尿検査あるいは画像診断)を用いる.(2)三カ月間以上にわたる換算GFRが六〇ml/min/一・七三m2以下が続いている.この場合は腎障害の有無を問わない.
 このような国際的な動きを踏まえ,日本腎臓学会は平成十六年十一月の理事会において慢性腎臓病対策小委員会を設置し,まず,わが国のCKDの疫学的研究とCKD対策の取り組みを開始した.
 昨年六月,パシフィコ横浜で開催されたJapan Kidney Week(JKW)で委員会の活動報告が公表された.同委員会の予備的調査によると,血清クレアチニン値からの概算GFRによる腎機能低下者は欧米人よりも予想以上に多いという.すなわち,GFR六〇ml/min/一・七三m2以下のいわゆる慢性腎臓病“CKD”は,アメリカでは人口の四%存在するのに比較して,わが国では二〇%を超えるという.GFR五〇ml/min/一・七三m2未満に限ってみると約四百八十万人で,四・六%存在することになる.いずれにしても,わが国においてもCKDは頻度が高く,common diseaseと理解され,社会の高齢化と糖尿病患者の増加などに密接に関連する疾患といえる.
 CKDが心血管イベントのリスクとなることから,CKDの早期のステージから積極的な治療管理を標準化する意義が大きい.そのためには,関連する諸団体の協力のもと,「CKD対策協議会」なる組織作りにより,国民病ともいえるCKD対策の確立を目指す必要性がある.
 CKDをめぐる新しい展開がアメリカを中心に世界的に進められるなかで,わが国の取り組みが注目されるが,日本人(アジア人)に適合した換算GFRを求める簡易式の開発などは早急に取り組むべき課題である.日本腎臓学会には,アジア諸国との連携を深めるとともに,国際的CKD対策(国際腎臓病ガイドライン作成など)への貢献が期待されている.
【参考文献】
 一,特集慢性腎疾患,日医雑誌第一三四巻第十二号,平成十八年三月.

(日本腎臓学会理事長・新潟大学病院長・第二内科教授 下条文武)

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